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みとなんこ@紺
みとなんこ@紺
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prayer

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「ネス!」
「何処に行ってたんだ、キミは」
「ごめんごめん」
トウヤに言われて慌てて戻れば、案の定、兄弟子はおかんむりだ。
さっきすれ違ったアメルにも遠回しに怒られた。他の皆も気付いていたのか、あちらこちらで小突かれたりもしたけれど。
たぶん、一番何か言いたいのは、彼だろう。
兄弟子の雷を覚悟して、ん、と口を引き結んで微妙に身構えてみたが、何故だか彼は大きな溜め息をついて、苦笑を浮かべた。
「少しは頭は冷えたか??」
「…ネス?」
ポン、と軽く頭をはたかれる。

「キミの不安も疑問も、自分1人だけが持っているとは思わない事だ」

皆、同じだ。
ネスティは静かにそう続けた。


一瞬、息を忘れた。
何とも言えない表情で見つめてくるマグナに、ネスティはしようがないな、とでも言いだしそうな顔で盛大にため息をついてみせる。
それから、ふっと力を抜くと、マグナノの好きな顔で笑った。
「・・・こんな戦いに、出来れば誰も巻き込みたくないと思っているのは、何もキミだけじゃない」
けれど、自分たちだけでは、手も届かない。力も足りない。
だから、事をなし得るための力を借りるんだ。
「召喚術の基本理念だろう」
ちゃんと思い出せたか?
コクリと神妙な顔で頷くマグナに、ネスティはそっと囁くような声で言った。
「・・・あまり1人で悩んで、先走るな。僕はそう言わなかったか?」
「・・・言った」
「キミは考えるより先に動く方だろう。似合わない事をしていないで、まず目の前の事に集中しろ」
一息に小さく告げた後、ネスティは振り返らずに背を向けてその表情を隠してしまった。
でもきっと照れくさいんだろうな、とマグナは口に出せばどうなるか判ったものではない感想を抱いて、少しだけ気が楽になった。まとわりついていた苛つきとか、もやもやした嫌なものが、何かが軽くなったような気がした。


先を行くその背と、所在なく揺れる手を見ていると、何とも言えない思いが心の底からこみ上げてきたような気がして。
マグナはそろり、とその白い手に手を伸ばした。

「・・・こんな時に何をしているんだ、キミは」
「・・・・・・何となく」

手を。
昔よくしてくれたように繋いでおいたら、見失う事もないかなと思って。…とは、言えなかったけれど。

言葉にしなくても確かな意志を伝えてくる力の強さに、ネスティは僅かな苦笑を浮かべると、応えるように握り返してくれた。
「心配しなくても、」
そっと言葉を切る。
「ここにいる」
「・・・うん」



 カミサマ。



「…マグナ、今のは?」
聞かせるつもりはなかったのに、ネスティはその耳慣れない響きを聞き咎めた。
「…レナードさんのいた世界では、こんな時、その見えない大きな何か、“神様”に祈るんだって」

やれる事やって、ベストを尽くして、そんで手持ちのカードが何もなくなっちまったら、あとはアレだな。神頼みくらいだろ。

そう言った彼自身、あまりその存在は信じていないように見えたが。
どんなものなんだろうと思う。
常にそこにあって、全部見ていて、気紛れに手を貸してくれる(かもしれない)モノ?
そんな都合のいいものはあるとは思えないけれど、どうか。
祈るべきモノも言葉も知らないけれど、ただこれだけは思う。
どうか、この人がこれ以上辛い思いをすることがないように。


 早く帰ろう。


こんな戦いしなくても良くて、皆が笑顔で、ネスが笑って、また「バカだな」って言ってくれる世界を取り戻せるなら、何だってする。きっと何だって出来る。
遙かな過去、この血に繋がる誰も知らぬ一族の罪を償わねばならないというのなら、どんな罰だって受けるから。
だからこの人も誰も、奪わないで欲しい。
これ以上、誰からも。

「神」の姿など知らない。
すべてのエルゴに通じるという誓約者の力を持つ彼は、レナードと同じ世界からきたという。
だったら、見た事はあるんだろうか。その存在を感じた事はあるんだろうか。彼もその存在に祈った事があるのだろうか。
・・・いや、でも彼は、何だかそういったものが好きじゃないかもしれない。
だって変えるのは、変わるのは自分自身の力で、と。
1人で出来ない事も、支えてくれる皆がいれば、何だって出来そうな気がする、と。告げる響きは酷く強い。
それは目に見えない不確かな存在に寄りかかっていては、言えない言葉な気がする。

「――――!」

来る。



光が弾けた。



トウヤとソルがそれぞれ解放した力ある言葉に応えて、巨大な陣が中空に現れ、異界の高位召喚獣が姿を現す。
瞬間、感嘆と恐慌の怒号が戦場に溢れた。

「今だ、つっこむぞ!」

陣形の崩れる瞬間を狙っていたガゼルの号令以下、次々と皆駆け出した。


岩棚から降りてきたトウヤと、遠目に視線が合う。
抜き身の剣を携えて、彼は一つだけ頷いてみせた。
応えるように頷き返すと、彼は微かに笑みを浮かべて、白のマントを翻して戦場となった荒野に身を躍らせた。

その時、ふと思った。トウヤも、同じなのかもしれない。同じように、色んな事を乗り越えてきたのかもしれない。
そして彼にも、無くせない何かがあって、その為に受け取ったあの力を使うんだろう。
・・・今度。この戦いが終わったら聞いてみようか。

かつて世界を壊した、と言った彼は、振り向かないままに言ってくれた。
すべてを背負いこもうとしなくていい、と。
そうだ、ずっと言われてきていたのに、わかったふりをして聞いていなかった。
『1人じゃない。自分で持ちきれないものは、一緒に行こうとしてくれる、傍にいてくれる人が支えてくれるよ』

――――大丈夫。

『たとえどんな道でも、大事なものを護りながら進んでいく方法は、あると思う』
そう、思いたいよ。



「…そう、思いたいね」



ネスティの手をとった、あの時。
温かい手を握る手に無意識に力が籠もった。

・・・これは、いつも傍にいてくれる大事な手。

自分にも譲れないモノがあって、大事な人たちがいてくれる。
だから――――今度こそは、全部護れるように、護るための剣を振るおう。


大丈夫。


今まで選んで歩いてきた道は、間違ってない。
これから始まる、最後の戦いへの道行きも、
誰も、何も失う事のないように。

捧げるように持ち上げたその手に、目を閉じて額を付けた。
それはとても、祈りに似ていた。






END
作品名:prayer 作家名:みとなんこ@紺