ハルモニア
必死に視線泳がせてなにやら考え込んでいるような相手に押しを強めると、頭を抱えてうんうん唸る。俺はそんなプロイセンを尻目に一つパンの残ってしまった袋とパックを持って立ち上がり、容赦なく梯子に向かった。それに気づいたプロイセンが大声をだして俺を呼び止めたので、なんとなく驚いて肩を揺らして振り返る。
「は、ハンガリーの…姉ちゃんの時だけだぞ!? 二日に一回!それなら乗ってやってもいいぜ!」
下手に出るのは癪だという相手らしい返答に不服ながらも、多分プロイセンが一番好むであろう笑顔で返す。こういうとき顔が似てるというのはとても便利だ。案の定相手がまたフリーズするのが見て取れる。
「なら明後日からな。不味いモン作ったら承知しないよ?」
ひらひらと手を振ってその場を後にする。梯子を降りるときに紙パックは失敗したなとも思ったが、今は機嫌がいいので細かいことは気にしないことにした。自分でも思った以上に足取り軽く戻った教室には、既に姉さんの姿があった。俺を見つけると、ふんわりと花が綻ぶような笑顔を向けてくれる。我が自慢の姉だ。姉さんには好きな人と幸せになってほしい。
「あら、どうしたの?何かいいことでもあった?」
どうやら意図せず笑っていたらしい。くすくすと小さな声が漏れる。吊られて一層笑みを深くするとなんでもないとだけ答えておいた。
「そうだ、明日はお弁当なにしようかしら?今日はごめんね、朝のうちにやっておきたいことを思い出して…」
「いいよ、買って済ましちゃったからさ。当番は一日ずらすだけだしね。オーストリアさんの好きなもので俺は充分!」
「もう…なら何か思いついたらいいなさいね。」
オーストリアさんの名前を出すとはにかんで笑い、会話を終えるとすぐに想い人のところへ行ってしまった。俺たちは自分たちの分の他にオーストリアさんの弁当も作っていたりする。そして何らかの事情で用意できなかった場合、当番は一日ずれる仕組みだ。
ばれたら怒るだろうなぁと他人事のようにぼんやり考えていると、昼休みの終了を告げるチャイムが、未だにプロイセンの戻らない教室に鳴り響いた。
~Das Ende~