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Ever lasting

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 人間なんかいつ死んでしまうか分からへんから……。
 まだ新一がコナンの姿になっていた頃、新一が刺されて死んでしまう夢を見て思わず相手を大阪に呼び寄せた。
 

 動かなくなった彼の服が血で染まる。
 平次の腕の中でピクリとも動かなく、だんだんと冷たくなっていく体に胸が激しく痛んだ。
 ……失ってしまう。
 ……いなくなってしまう。
 何度も何度も声が涸れる程新一の名前を叫んだ。
 そして、はっとして目を開けば飛び込んできたのは自室の天井で、それが夢だと平次はやっと自覚する。それでも、鼓動が煩いぐらいに脈打ち喪失感が胸にじわりと広がって、新一の無事な姿を見たくなった。
 だから電話してしまったのだ。
 大阪でその夢の話しをすれば、案の定コナンだった彼は呆れた顔をしたが、大事な存在が傍にいるという喜びを平次は噛みしめた。







(ほんま……いつ死んでまうかわからへん。人間て脆いもんやねんなぁ……)
 過去に飛んでいた意識を現実に引き戻す。
 平次は玄関を皓々と照らす照明を見上げ、少し目を細めた。表札に書かれている「工藤」という名前をゆっくりと目でなぞりながら、未だ帰ってこない家の主に弱音を吐いてしまいそうになる自分に苦笑する。
 夕方から降り始めた雨は、夜中になる程雨足を強め、一向に止む気配を見せなかった。
 激しい雨が平次の心を掻き乱して、濡らしていく。迷惑を掛けたくないし、きっとこんな弱い姿を見たら相手は心配するに決まっているから、一刻も早くここを去らなくてはならない……と分かっているのに、体がまったく動かせなかった。
 心のダメージは身体にも必ず影響する。
(笑いたいねんけど、笑い方忘れてしもたみたいやわ…)
 溜息を吐き出し、ノロノロとドアに凭れかかり座り込む。
「…服部?」
 不意に飛び込んできた声。今一番聞きたいもので……唯一平次を安堵させてくれる相手の気配に顔を上げれば、驚いた様な心配そうな表情を浮かべながら新一がこちらを見ていた。
「…夜中にすまん。ちょぉ、顔見となってな」
 立ち上がり無理やり笑みを口元に貼り付ける。新一はさっきの表情をしまい込んで、
「疲れてんだろ。とにかく中入れよ。話しはそれからだ」
 鍵を開け平次を中に促した。
「なあ、塩あらへんか。家入る前に清めんと」
「律儀だよな」
「何言うてんねん。葬式の後やねんから当たり前やろ。こんなん常識や」
 新一にキッチンから小さな瓶を持って来てもらい、平次は塩を少し摘んで肩や足にふりかけた。パラパラと落ちる白い粒。それがどこか切なくて、一瞬手が止まってしまう。
「…ありがとさん。ほな、これ片付けてくるわ」
「ああ。あ、服部コーヒー飲むよな。今日新しい豆買ってきたんだ」
「そやな、いただくわ」
 いつもの口調、いつもの新一。
 何も聞いてこないのは、向こうの優しさ。きっと、こっちが切り出すまで新一は触れてこないだろう。
 それに甘えているなと思い、微苦笑を浮かべる。
「お、ええ匂いやな」
 リビングに入った途端に香ばしい香りが鼻孔を擽ってくる。
「今回はちょっと苦みが濃いやつにしてみたぜ。お前、この前の薄いって言ってただろ」
「覚えとったんか」
 自分の言った些細な事を覚えていてくれた新一が愛しくて、思わず口元を綻ばせた。さっきまで冷たかった心がじわりとあたたかくなって、平次は新一に近づくとそっと腕を伸ばした。そっと頬に触れると、微かに目元が紅く染まる。
「…上着脱げよ。濡れてるから、掛けとく」
「工藤…」
「ほら、さっさと寄こせ」
 平次は雨で濡れた上着を新一に渡した。相手はそれをハンガーに掛けて軽く皺を伸ばす。
「……なあ、工藤。この前大阪であった強盗殺人事件知っとるか? 小学二年の女の子が人質にとられたやつ」
「ああ、ニュースで見たぜ。留守だと思っていて入った家に子供が居て、……その子を人質に立て籠もったっていう事件だろ」
「せや。その子熱出しとってな、極度の緊張と高熱で危険な状態やったんや。はよ病院に連れていかなって母親半狂乱になっとったわ……。俺は別件の事件で大阪におったから、リアルに事件の内容が耳に入ってきよった」
 一旦言葉を切る。
 自分が関わっていた事件が解決を見せた後に飛び込んできた、無事に子供を救出したという知らせ。
 そして……。
「やったら、一人の刑事が犠牲になったんも知ってるやんな……。子供助けよ思て、犯人に撃たれて……」
「……ああ」
「ごっつええ人でな。俺がちっさい頃から世話なっとった人やねん。剣道の稽古の時も生意気なガキのお守りもしてくれよった。普通、警察に子供が出入りするんはいただけん。せやけど、あの人がいつも俺の事気に掛けてくれて、居場所くれててん……っ」
 自分が探偵として現場で動けていたのは、父親や大滝、そして大阪府警の刑事達の恩恵のお陰だった。未成年の高校生が事件現場に足を踏み入れられる、それが異例なんだと今なら簡単に思い当たる。
 不意に頬に触れる温もりにはっとすれば、新一が平次の瞳を覗き込んでいた。深い黒に浮かぶのは、弱々しい自分の姿……。
「服部にとって、その人はすごく大切だったんだな……」
「工藤……っ」
 腕を新一の腰に絡め抱き寄せる。温もりを引き寄せ、肩口に顔を埋める。生きているという温かさと存在を直に触れて確かめた。
「…ほんの少し弾がずれとったら助かったかもしれへんて医者は言うてた。たった……たった数ミリやで…っ! 俺が事件追うてる間に何回も助言してくれはって…、そのお陰で犯人分かったちゅーのに、まだ礼なんも言えてへん……っ」
 最後に交わしたのは、『今度ゆっくり飲もうや』という約束。
 二十歳を超え、大人という部類に仲間入りした自分にくれた言葉が今でも胸に残っている。
 新一の手が平次の髪をゆっくりと撫でていく。何度も何度も、傷口を癒すかの様な動きに、高ぶっていた神経が少しずつ収まりをみせ、平次は小さな息を吐き出した。
「なあ、服部はちゃんと犯人見つけたんだろ。で、助けた女の子も無事だ」
「…あ、ああ」
「だったら、その人がした事に意味はあったし、生きていた証は残ってる……」
 だけど、残って欲しい人が消えてしまったら意味がない……っ。
「けど……、生きてて欲しかったんや。…犯人恨んだら…て思たけど、そんなんしたら怒られてまう……」
 この怒りを……悲しみをどこにやったらいいんだろうか。
「……できる事なら失いたくねーし、ずっと傍にいて欲しい。それは俺だって同じだ。……けど、人間一歩先は誰にも分かんねーんだよ。今日が無事に終わったとしても、明日にはどうなってるか。一緒にいた相手が次の日にはいなくなる……。考えてみたらそれって、すっげー怖いよな」
 実際、新一は幼なじみにその思いを味わせてしまっている。平次の前では笑っている事が多かった彼女だが、コナンの前では泣いていたらしい。以前、新一が辛そうに平次に告げたのを思い出した。
 今回のケースと違うのは、新一は戻ってきたが彼はもう二度と戻ってはこないという事だ。
 『死』というのは、自分と相手との決別を意味する。
「……」
「なあ、服部。その人の事が大事だったら……」
作品名:Ever lasting 作家名:サエコ