【腐】枯渇SOS
辺りはすでに真っ暗で、夜でもそれなりに深い時間帯である事に気づく。静雄との電話の後、今の時間までずっと眠っていたらしい。
手中にすっぽりと収まっている古い携帯。静雄だけが番号を知る携帯の電池は空っぽになってしまったらしい。まるで今の自分の心の中のようだ。
静雄と何を話したのか思い出せない。熱に浮かされるまま、何かとんでもない事を言ってしまったような気がする。一眠りしたことで少し熱が引いたらしい思考をフル回転させても、あの電話の記憶だけがすっぽりと抜け落ちてしまっている。
そういえば、喉が渇いている。あれからずっと眠っていたのだから当然か。台所に水を取りに行こうと起き上がって、ふと、サイドボードに目が止まった。
「これ……」
サイドボードに置かれていたのは、市販の風邪薬と、グラスに入った水。咄嗟に、波江が置いていったものかと判断しかけたが、一緒に置かれていたメモ紙がその可能性を全否定していた。
高校時代から変わっていない、見慣れた文字、そこに書かれていたのは優しさの欠片もなかったが、逆にそれが彼らしかった。静雄は、どんな顔をして、自分の為の風邪薬を買ったのだろうか。あとでドアノブの修理代の請求もしないといけないな。仇敵を思い浮かべながら、臨也はふっと笑った。
渇いた其処に、水が沁み入る。もうしばらく、この携帯は取っておくとしよう。