二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

ワゴン空席あり

INDEX|1ページ/2ページ|

次のページ
 
目覚まし代わりの携帯が大音量で鳴り響き、いつもの様に目を覚ます。

昨夜は彫り上げたい型がなかなか完成せずに随分遅くまでかかってしまった。

何度か寝返りを打ってから思い切って上半身を起こす。

と同時に体の芯がぐにゃりと曲がったような錯覚を起こした。

頭が重い。キシキシと外から内から同時に押しつぶされるような痛みが走る。

痛みに眉を顰めながら



「・・・これは・・・やっちゃったかも・・・。」




狩沢絵理華は一人呟くと、寝汗で額に張り付いた前髪を掌でよけた。

といってもその行為はポーズに近いものがある。

額を触らずとも、顔や体がいつもよりも熱いことは体感として分かっているのだ。

それでも尚、熱を測るように額を押さえて再確認する。



・・・どう考えても風邪です本当にありがとうございました・・・。



そのまま上半身がのめり込むようにベットに倒れこむ。

その衝撃でこめかみにまた痛みを感じながら目を瞑る。


・・・どうしよ、昨日の仕上げ・・・。いや、でも8割方作業終わってるから・・・。

明日でもギリギリ作業間に合うから大丈夫かな・・・。

今日は大人しく・・・・。


仕事に支障が出ないか瞬時に考察した後に、更に思い出す。


今日・・・。


うわ、今日・・・。ゆまっちが楽しみにしてたイベントの日だよお・・・。

一緒に行くって約束してたのに・・・。最悪・・・。ああ、連絡しないと・・・。


もそもそとベットから這い出ると携帯の置いてあるテーブルまで這って行く。



・・・ダメだ、気持ち悪くて文章打てないや。



メールを作成しようとしたが断念して、時計を確認する。

・・・この時間ならもうゆまっち起きてるはず。


しばらくコールした後に、携帯から馴染みの声が響く。


「・・・はい、もしもし。狩沢さん?どうかしたんすかー?」

底抜けに明るい口調と現在の自分の状態を比べつつも

ソファにもたれかかりながら、思い切って話し始める。


「・・・ごめんー。」


「?何がっすか?」

「起きたら・・・風邪引いちゃってた・・・。」

「ありゃ!大丈夫すか?」

「・・・んー。あんま大丈夫じゃない。・・・ごめんねゆまっち。今日さ、イベント付き合うって話だったじゃない・・・。」

「いや、体調悪いんじゃしょうがないっすよ!!大体今日のイベントは興味あるの俺のほうだけなんすから。」

「でもー、約束破っちゃうからさー・・・。」

「そんなこと気にしないでいいっすよ!!。狩沢さんこそ、しっかり休まないとダメっすよー?」

「んー・・・。今日はゆっくり休むー・・・。ありがとー。」

「お大事になさってくださいっす!!」


通話を切るとそのままソファに倒れこむ。

・・・やばい。これはちょっと本気でしんどい・・・。

軽く何か食べて、薬飲まないと・・・。


締め付けられるような圧迫感をこめかみに感じながら壁をつたうような姿勢で

ようやくリビングダイニングにたどり着く。

冷蔵庫から取り出したミネラルウォーターで

買い置きのパンを一枚、流し込むように口にする。

粉末の風邪薬はひどく苦い味のはずなのだが、味覚までおかしくなっているのか

ほとんど何の味も感じない。残りのミネラルウォーターを飲み干すと

また行きと同じような姿勢のまま寝室へ戻る。




あと、氷嚢・・・。あ、氷無いや・・・。

こういうときの一人暮らしはホント、悲惨・・・・。

なるべく頭を動かさないように体を折り曲げたまま、ベットに移動する。

力の入らない体を畳むようにして横たわる。

・・・どうしよう・・・。これは世に言う死亡フラグかも・・・。



そのまま狩沢はほとんど動くこともせず、激しい頭痛と吐き気に襲われながら

痛みを意識の外へ追いやるかのように強く目を瞑った。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー









朝の電話から数時間後、外環近くの裏路地に一台のワゴンが停まっていた。


「・・・で?狩沢が急病で来られなくなったから、俺らを呼んだのか?」


門田京平は助手席から後ろを振り返らないまま問いかける。

午前中に突然遊馬崎から連絡があり、いつものようにワゴンに乗り込んでいるメンバーだったのだが

今日は狩沢だけが不在だ。

遊馬崎の説明によると狩沢は風邪を引いたらしい。

狩沢が風邪を引いたという話はほとんど聞かないので珍しい事だった。

今日は二人が何かのイベントに行くということは前々からしつこい位聞かされていたので

てっきりそれにつき合わされるのかと門田は思っていたのだが・・・。


後部座席から顔を出した遊馬崎の顔がフロントミラーに映る。

「いや、そのために二人を呼んだんじゃないんすよ。」


「?じゃあどこ目指すんだよ。早く言ってもらわねえと俺も車出しようがねえぞ。」

渡草が訝しがると遊馬崎は不思議そうに運転席を見つめる。


「何行ってるんすか。このメンバーで行くとしたら行き先は一つっすよ!!

狩沢さんをお見舞いに行くんす!!!」



少しの間だけ沈黙する車内。


「・・・あぁ。」

「・・・成る程な。」

沈黙も一瞬で終わり、渡草も門田も、当たり前のようにその提案を受け入れる。


「・・・確かにな。このメンツで揃って後ろに狩沢が居ないってのは・・・。」

「まーな。物足りないっつーか。何か違和感あるわ。」


頷く二人を後部座席から嬉しそうに眺めると遊馬崎は大声で叫ぶ。


「さすが分かってるっすね!!

じゃあ、さっそく『狩沢さんには内緒!突撃お見舞い作戦』スタートっす!!」

「・・・内緒っておい!!」

遊馬崎の発言に門田は目を剥いたが本人はまったく気にする様子が無い。


「まずはスーパーに行って色々お見舞い用の装備を調達するんすよー!!!」


ますますテンションを上げる遊馬崎をミラー越しに眺めながら呆れ気味に呟く。

「・・・装備ってお前・・・まったく・・・思いやりがあるのか無いのかわかんねえな。」

「ま、それならいっちょ、行きますか。」

渡草はサイドブレーキを下ろすと、ワゴンを発進させた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


閉じきったカーテンから光が透け、部屋の中を薄っすらと照らしている。

いつの間にかベットの中で狩沢はぐっすりと寝入っていた。

だが突如携帯が鳴り響き、狩沢の意識は覚醒する。


・・・・え、何うるさい・・・。


自分を取り巻く状況を一瞬忘れ、無理やり意識をこじ開けようとするノイズに嫌悪感を抱く。

だがややあって、自分がひどい体調不良で寝込んだこと

友達との外出をキャンセルしたことを思い出す。


・・・あ、ゆまっち?

まだ覚醒し切らない頭をもたげると、ベットから足を下ろす。

ひんやりとしたフローリングを足の裏に感じながら、薄暗い部屋を見渡す。

主人がいながらも、電気を点けずにいる部屋はひどく他人行儀で無機質に感じる。

そのままテーブルまで行くと点滅する携帯をつかむ。
作品名:ワゴン空席あり 作家名:えも野