次の日
渡草の道を知り尽くしているが急なハンドル捌きに、門田はいつものようにぐっと腹筋を力ませ、振り回されないようにと足を踏み締めた。
だが、力を入れようとした腰は鈍い痛みに、悲鳴を上げる。
「っう……ッ」
痛みとも快感ともつかない、奇妙な声が漏れ、ワゴンの中の騒がしかった声達が、何事かと静まり返る。
しまった、と門田は珍しく動揺し、首を竦めた。
「門田さん、どうしたんすか?」
「……別に、何でもねえよ」
「でも、ドタチン顔赤いよ?」
遊馬崎と狩沢が、後部座席から顔を出す。余所見を出来ない渡草も、心配そうだ。
「風邪っすか?」
「……いや、そうじゃねえんだが」
門田は、窓ガラスに視線を逃した。
痛みの原因はわかっている。
だが、あまり思い出したくない。
思い出したくないのだが、じくじくとした熱っぽい痛みに、記憶は簡単に蘇り、門田の顔を高揚させる。
「門田さんの家まで回しましょうか?」
「……そうだな、頼む」
門田は余計なことを言わないように、口を押さえ短く咳払いした。
「ドタチン大丈夫? 風邪薬ちゃんとある? マツキヨ行く?」
「常備薬くらい俺でも持っているぞ」
「もう、門田さんはそういうの隠すの良くないっすよ! 具合悪いならちゃんと言ってくださいね!」
「……すまん、お前らにうつしちまうかもしれないのにな」
風邪だと思われているなら、その方がまだマシだと、門田は話を合わせることにした。
勿論、門田は風邪など引いていない。
だが、顔は赤く、体はだるい。声もどこかしゃがれている。
どこからどう見ても、風邪の症状だ。
気を使ってくれた渡草の三割増しの安全運転に送られ、門田は日の落ちたアパートに辿り着いた。
「悪いな」
「門田さんこそお大事にしてくださいよ」
「おう」
ワゴンが視界から消えるまで見送った門田は、広い肩を竦めた。
本当に、風邪のように体が熱っぽい。
階段を上る足も重く、一段一段が体に響く。喉が渇き、疼く。
「水……」
全身に侵食する餓えに、門田は熱い息を吐いた。
部屋に戻り、ミネラルウォーターを一気飲みしても、体の熱っぽさは抜けない。
思った以上に、体に負担が掛かっているようだ。
門田はウインドブレーカーを脱ぎ、ベッドに身を投げ出した。
「あちいな……」
横になった途端、体が泥のように溶けていく。
門田はいつの間にか、眠りに落ちていた。
だが、力を入れようとした腰は鈍い痛みに、悲鳴を上げる。
「っう……ッ」
痛みとも快感ともつかない、奇妙な声が漏れ、ワゴンの中の騒がしかった声達が、何事かと静まり返る。
しまった、と門田は珍しく動揺し、首を竦めた。
「門田さん、どうしたんすか?」
「……別に、何でもねえよ」
「でも、ドタチン顔赤いよ?」
遊馬崎と狩沢が、後部座席から顔を出す。余所見を出来ない渡草も、心配そうだ。
「風邪っすか?」
「……いや、そうじゃねえんだが」
門田は、窓ガラスに視線を逃した。
痛みの原因はわかっている。
だが、あまり思い出したくない。
思い出したくないのだが、じくじくとした熱っぽい痛みに、記憶は簡単に蘇り、門田の顔を高揚させる。
「門田さんの家まで回しましょうか?」
「……そうだな、頼む」
門田は余計なことを言わないように、口を押さえ短く咳払いした。
「ドタチン大丈夫? 風邪薬ちゃんとある? マツキヨ行く?」
「常備薬くらい俺でも持っているぞ」
「もう、門田さんはそういうの隠すの良くないっすよ! 具合悪いならちゃんと言ってくださいね!」
「……すまん、お前らにうつしちまうかもしれないのにな」
風邪だと思われているなら、その方がまだマシだと、門田は話を合わせることにした。
勿論、門田は風邪など引いていない。
だが、顔は赤く、体はだるい。声もどこかしゃがれている。
どこからどう見ても、風邪の症状だ。
気を使ってくれた渡草の三割増しの安全運転に送られ、門田は日の落ちたアパートに辿り着いた。
「悪いな」
「門田さんこそお大事にしてくださいよ」
「おう」
ワゴンが視界から消えるまで見送った門田は、広い肩を竦めた。
本当に、風邪のように体が熱っぽい。
階段を上る足も重く、一段一段が体に響く。喉が渇き、疼く。
「水……」
全身に侵食する餓えに、門田は熱い息を吐いた。
部屋に戻り、ミネラルウォーターを一気飲みしても、体の熱っぽさは抜けない。
思った以上に、体に負担が掛かっているようだ。
門田はウインドブレーカーを脱ぎ、ベッドに身を投げ出した。
「あちいな……」
横になった途端、体が泥のように溶けていく。
門田はいつの間にか、眠りに落ちていた。