蒼き琥珀
<7>
そうして話しながら、王宮の外で待たされていた馬車に二人で乗り込む。
がらがらと車輪を鳴らして進み始めたその中で、ふむ、とウィンリィが息を付いた。
「───今度から、視察の機会があったら、一緒に行けるようにしなくちゃね。左宰相様に進言してみようかしら」
「その方が良いと思う。二、三日ならともかく、長く離れることになると、二人にどれだけ悪い影響が出てくるか解らないしね」
頷いたハイデリヒは、ふと気づきくすくすと肩を震わせた。
「…やだ、なあに?」
「ん?…うん、なんだかちっとも、色気のない会話だなぁって」
「あら、ホントね」
言われてウィンリィも気づいたらしい。
所在なげに座席の上に置かれていたハイデリヒの手をそっと取り、指を絡める。
「仮にも半年ぶりの再会だっていうのに、話の内容はエドとアルのことばかりだし?」
「そうそう」
2年の留学期間のうち、ハイデリヒはスケジュールの関係で一度も帰国することができず。
半年前にウィンリィが留学先に会いに行ったきり、二人は全く顔を合わせていなかったのだ。
「毎日のように電話してたし、手紙もしょっちゅう送ってたからかな。そんなに離れてた気がしないんだ」
「奇遇ね、あたしもよ」
繋いでいない方の手でハイデリヒの髪を撫で、自分の方へ引き寄せる。
「ホント、どうしてかしら」
「ずっと会いたかったし、こうして触りたかったんだけどなぁ」
「キスもセックスもしたかったし?」
「…女の子がそういう、あからさまなことを言わないの」
典医という役職に就いているからだろうか、ウィンリィは存外その手の言葉を口にすることに躊躇いがない。
「でも、したくなかった?」
「……したかったよ」
ぽつんと呟いて、甘えるようにウィンリィの肩口に頬を寄せた。
「僕だって一応、若いし」
「枯れるには早い年だけど、だからといって浮気なんかしてたら頭かち割るわよ」
ぺしん、と後頭部をはたかれて、いたた、とハイデリヒが苦笑する。
「ありえないこと想像しないでよ。僕が他人に触られるの苦手だって、きみが一番よく知ってるでしょ」
「…やぁね、解ってるわよ」
すぐ傍にあるハイデリヒの額に触れるだけのキスを落として、ウィンリィは笑う。
「リィじゃないと僕、ダメなんだから」
彼の、他人と触れあうことへの苦手意識は、幼い頃の経験によって植え付けられたものだ。
一度も口にはしなかったけれど、おそらく留学先でも、そのことについては苦労したのだろうと思う。
「そのことも、ちゃんと解ってるわ。あたしだって、あんたじゃないとダメだもの」
「───それじゃ、今日はアルフォンスくんの若さを証明して貰おうかしらね」
「半年分あるしなぁ、一晩で足りるかな」
「足りなかったら、明日以降に持ち越せば良いのよ。どうせこれからは、ずっと一緒にいるんですもの」
「…そうだね」
繋いだままの指をきゅう、と握りしめて。
「これからは、ずっと一緒にいられるもんね」
心底嬉しそうに、ハイデリヒは呟いた。