LOOP
『…それで白状させられたの?』
「仕方ないから言ってやった、だぜ。相棒」
しっかりと訂正が入るのがおかしくて、もう一人の遊戯はこっそりと笑ってしまった。
遊戯はコートに帰宅のお供に遣わされたチェスの駒を、珍しいものを見るような瞳で見ている。
『…良かったね』
相棒が自分のことのように嬉しそうに言うから、今度こそは「まぁな」と笑って答えておいた。
『じゃ、今度美術館行く時に持っていかなきゃね』
もう一人の遊戯としては気を使っての発言だったのに、遊戯ときたら、一瞬の間を空けてきょとんとした表情を見せたと思ったら。
次の瞬間、容赦なく噴き出した。
『ちょっとー、フツーそこで笑うかなぁ~?』
「…悪い」
どうやらツボに入ってしまったらしい笑いを懸命に抑えて言う。
「だが持ってく必要はないぜ、相棒。こいつは家でお留守番、だ」
『え、どうして?だって海馬くんがくれたお守りみたいなもんでしょ。なんかよく分からない効果、すっごくありそうじゃない?』
だから、だよ。
悪戯っぽく答えて、遊戯は鮮やかな笑顔を見せた。
「…あいつはオレに、さっさと片付けてこいつを返しに来い、って言ってるのさ」
『・・・うん。…そうだね』
こっそり、夕焼けを見るフリをして涙を誤魔化そうと背を向ける相棒に穏やかな笑みを返し、遊戯は掌に視線を落とした。
…帰り間際。コートに、チェスの駒を忍び込ませた彼は一体どんな表情をしていたんだろう?
何を思って、どんな思いを白の王に託したのだろう?
…それは出来るだけ考えないようにした。
今は、まだ。自分の選べる道が判らないから。
けれど。
ここで、この世界で果たさなければならない約束を残してくれた事に。
自分に向けられた、その想いに。
遊戯は、皆が言う、嬉しい時の泣き出したい気持ち、っていうものはこんな風に感じるものだろうかと。
目を閉じて白の王に静かに口付けた。
FIN