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無題if 赤と青 Rot und blau -罪と罰-

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嘯くプロイセンにアメリカは目を細める。プロイセンの言葉は矛盾している。情ならば、きっと殺せない。イギリスはそうだった。…プロイセンとドイツの間にあるもの。深い絆、信頼関係…いや、そんなものではない。もっと違う何か。アメリカは見極めようと目を凝らす。
「…そうかい?君はドイツをひどく愛してると思うよ」
愛じゃなければ何だというのか。それが、一番近いような気がする。アメリカはふっと差し出された温かな手のひらを思い出す。…夕暮れの迫った何もない草の多い茂った小道をイギリスとふたり…。

「愛してない。そう見えるとすれば、俺の為だ」

プロイセンの抑揚を欠いた声がアメリカの追想を遮る。
「…君の?」
愛してない。自分の為だと…。アメリカは瞳を瞬いた。
「俺の為だ。…言っただろう、ずっと消えたかったと」
「うん。…でも、何で消えたいんだい?オレには理解出来ないぞ」
消えるということは、死ぬことだ。それを望んできたというプロイセンの言葉がアメリカには理解出来ない。
「…ずっと昔、父とも慕った王がいた。王は俺のために一生を捧げた。その王のところに逝きたい。その王がいなくなってから、俺はそればかりを望んで生きてきた。そんな俺の前に「ドイツ」現れた。俺を殺すことが出来る唯一の存在だった。利用しない手はないだろう?」
慕った人間の後を追いたかったと言うのか、その為に「ドイツ」を利用しようとしたと言うのなら、それをドイツが知ったら、どれほどの衝撃をうけるのだろう。イギリスにそう言われたら、自分は立っていることさえ出来ないかもしれない。アメリカは言葉に詰まった。
「…理解、出来ないんだぞ」
それを言うのが精一杯になる。プロイセンは笑んで、アメリカを見つめた。
「ドイツは、イギリスの保護の手を振り払って、独立したお前のようにならなくてはならなかった。だが、ドイツには俺を切り捨てる強さがなかった。…それが俺の誤算だったな」
苦笑するように、プロイセンはそう言った。
「君はドイツを「独立」させたじゃないか。平和的に」
イギリスと争いたくはなかった。話し合いで解決し、自分を認めて欲しかった。でも、イギリスは何一つ、自分の言うことを訊いてはくれなかった。…ただ、守られていればいればいいのだと繰り返すだけだった。…イギリスは自分のことを解ってくれてはいなかった。その絶望が親のような、兄のような…愛したひとに銃剣の切っ先を向けてしまうことになったのだ。
「平和的に…、か。あいつは俺に従順だったからな。でも、本来は俺から全て奪わなければならなかった。俺もそうするようにすべきだったんだろうな。でも、目の前に迫った「消失」が嬉しくて目が眩んでしまった。何も見えてなかった。愛すれば愛するだけ、俺の「死」が近くなっていくんだ。あいつのいるところまで距離が縮まった気すらした。ドイツが国になって、国としての本能か、ドイツは国に残る俺の気配を消そうと必死だった。それで良かったんだよ。俺は死にたかったんだから。…でもよ、「兄」として、自分に愛情をそそいでくれた存在を、俺を失えないと肝心なところで躊躇う。それの繰り返しだ」
プロイセンは赤を細め、項垂れた。
「お前は立派だよ。イギリスの手を振り払えた。イギリスに銃剣の切っ先を向けることが出来た」
「……簡単に言うね。…オレがどれだけの覚悟をしたと思ってるんだい?…辛かったんだ。あんな顔されるなんて思わなかった…今でも思うよ、オレが独立しなければ、イギリスは今も…」
あのとき辛かったのはイギリスだけではない。自分だって辛かった。どうして、好きな人に銃口を剣を向けなければならなかったのか。…崩れ落ち、泣きじゃくるイギリスを抱きしめて、許して欲しいと縋り付いてしまいたかった。…でも、出来なかったのだ。
「…お前が「国」である限り、それは無理だな」
プロイセンは無情に切り捨てる。それにアメリカは暗く笑った。
「…解ってる。いつまでも守られていたくなかった。…オレは彼を守れるような力が欲しかった。それは彼の庇護下では絶対に手に入れられない。銃口を突きつけるしか…」
「それでいいんだよ。実際、そう出来たじゃないか。…俺は甘やかし過ぎたんだろうな。…失敗したぜ」
プロイセンは言葉を切ると、幼子を抱いたマリアを見上げた。
「…大事に大事にし過ぎてしまった。…辛く当たってやるほうが、ドイツの為だったのかもなぁ」
「…どちらもいいとは言えないよ」
アメリカは呟く。
「…そうだな。でも、俺が持ってるものを、あいつが俺にくれたものをドイツにも全部与えてやりたかったんだ。…俺はそれで、本当に生きるのが楽になったし、許された気がしたから。でも、ドイツにはそれが辛かったのかもな」
アメリカはマリアを見上げるプロイセンを見やる。その赤い目はやさしく、マリアが胸の中の我が子を見つめる眼差しと重なって見えた。

「…長話になっちまったな。…アメリカ、お前に頼みたいことがある」

プロイセンは向き直ると、アメリカを見つめる。アメリカは胸に滲みる感傷を隠すと顔を上げた。
「アメリカとしては、君の頼みは聞けないんだぞ!」
アメリカはそう答え、プロイセンを見つめ返す。プロイセンは視線を伏せた。
「…そうだよな。今のことは忘れろ」
あっさりと踵を返すプロイセンにアメリカは小さく息を吐き、声を張り上げた。

「もう諦めるのかい?一兵卒のアルフレッドなら、ギルベルトの頼みは聞けるんだぞ!!」

その声にプロイセンは立ち止まり、アメリカを振り返る。アメリカはプロイセンを見つめ、にっと笑った。

「困ってるひとのためなら、何でも助けてあげるのがヒーローの役目さ!」

親指を突き出し、下手糞なウインクをしてきたアメリカにプロイセンは泣き出しそうに顔を歪めた。それから、頭を垂れた。


「…ダンケ。恩に着る」


プロイセンは振り返り、マリアを仰ぐ。


 ああ、マリア、お願いです。これさえ叶えば、自分はどうなったっていい。
 どうか、死者に安らかな眠りを。



プロイセンは今は胸にない十字を握り締めた。