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無題if 赤と青 Rot und blau -罪と罰-

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罪と罰4








「君がヘルの上司かい?」

青年の薄暗い開け放った扉から差し込む光が礼拝堂を明るく照らす。その光を背負う青年にプロイセンは目を細める。
「…ああ。わざわざ、こんなところまで足を運ばせてすまなかった。…ギルベルトだ」
「いいんだぞ。君に会って見たかったし。オレは、アルフレッドだ」
明るい金の髪。明るく晴れた空の色。靴音を響かせて、近づいてきた青年は少年の面影を僅かに残していた。その容貌に覚えがあり、…そして、「国」の気配にプロイセンは目を眇める。昔、どこかで見たポートレイトの子どもの面影。…イギリスが自慢していた。

「…お前、イギリスのもしかして、養い子か?」
「心外だけど、そうなんだぞ!」

青年はそう言い、頬を膨らませる。…七年戦争中、同盟を組んでいたイギリスに何度となく新大陸に出来た「弟」の話を聞かされた。どこもだが、特に兄弟仲が悪く、殺伐とした環境の所為か海賊染みた粗暴さを隠しもぜず、札束で人の頬を張るようなイギリスがある時期だけひどく穏やかな笑みを浮かべた顔をしていたことをプロイセンは思い出し、溜息を吐いた。
「…へルマンの奴、寄りによって「国」を連れて来るとは思ってなかったぜ…」
まさか、アメリカ本人が来るとは想定していなかった。彼も知らなかったのであろう。この青年が「アメリカ」自身であることを。…果たして、この青年に頼んでいいものか逡巡し、プロイセンは眉間に皺を寄せた。
「ヘルを怒らないでやってくれよ。イギリスもフランスも、ロシアも、君と会わせてくれないからこんな方法とる羽目になったんだぞ!」
アメリカはそう言い、ベンチに腰を下ろした。
「俺に会いたかった?」
更に眉を寄せたプロイセンにアメリカは頷いた。
「ドイツの「お兄さん」に興味があったんだ」
そして、プロイセンを見上げた。
「…俺にねぇ。もう国じゃねぇし、俺のことなんかどうでもいいだろう。超大国さんよ」
アメリカに興味を持たれるような国ではない。今や、ドイツの一州都…そして、これからは州都ですら自分はなくなるだろう。プロイセンは口端を歪め、笑った。
「どうでもよくないよ!解体宣言を出すまでもなく、君は国じゃないのに何で存在してるんだい?」
それを気にするでもなく、アメリカは口を開いた。
「……そりゃ、俺が知りてぇよ。…帝国創建の際、俺は自身の存在の役目の大半を終えた。後は消えてゆくだけだった。何度も消失の予兆はあったが、消えずにここまで来てしまった」
プロイセンは自嘲する。
「…消えるのって、怖くなかったのかい?」
「…怖い、か。俺が「プロイセン」だったときは、怖かったぜ。…でも、「ドイツ」が来てからは恐怖はなくなっていた。寧ろ、消えたくて仕方がなかった」
あの王を失ってから、ただ本当に生きているだけだった。あの王は自分に欠けていたものを与え、そして自分の大半を持っていってしまった。その喪失の穴は未だに埋まることがなく穿たれたままだった。でも少しづつ、あの子どもがその穴を埋めていった。それに確かに救われたのだ。
「消えたくて仕方がなかった?君は怖くなかったのかい?「弟」の存在が」
アメリカは首を傾ける。それにプロイセンは薄い笑みを浮かべた。
「あれは俺たちが永い事ずっと待ち望んで生まれた「ゲルマン」の再来だからな。その存在が、オーストリアではなく俺を選んだ。こんなに光栄で幸せなことはないって思った」
「…その存在が、いつか君を殺すことになったとしてもかい?」
「ああ。そんなもの承知の上だ。俺は確固たる地盤を持たずに生まれた国の成り損ないだからな。あるべきものがあるべきところへ戻る。…当たり前だろう?」
自分を卑下するような言葉にアメリカは眉を顰めた。…解りにくい。このプロイセン、ドイツの兄は。イギリスとも、フランスとも違う。まったくの異質だ。
「…でも、君はドイツに反発してたよね。…失敗したけど、上司の暗殺計画は君の指示じゃないのかい?」
上司の暗殺はプロイセンの根幹をなしていた人々がドイツの為に立ち上がり、歴史を変えようと足掻いた末の計画だった。でも、それは悲劇的な結末へとなってしまった。
「…成功していれば、ここまで酷くならずに戦争は終結していただろうな。…大事な人々を俺は犠牲にしてしまった」
上司のスケジュールを密かに漏らしていたのはプロイセンだった。疑われたものの、ドイツの兄と言う立場からか直接追求されることはなかったが、監視が付いたのは事実だ。それを逃れる為に、東部前線を志願したのだ。プロイセンは赤を伏せた。
「…何故、君は「ドイツ」を国にしたんだい?」
アメリカは伏せられた赤を見つめる。
「言っただろう。この国はもともと「ドイツ」のものだからだ」
「それだけで、すべてを譲り渡せるものなのかい?」
イギリスは自分を庇護という支配下に置きたがった。似たような立場のドイツが兄プロイセンと争うこともなく国として立ったことを知ったときに、酷く驚いた。そして、どうして自分とイギリスはそうならならなかったのか…考え始めるとキリがない。
「ああ。俺は俺のすべてをあいつに渡せたことに満足していた。いつ、消えても良かった。…でも、あいつは俺を裏切った」
プロイセンの赤に一瞬、憎しみが過ぎるのをアメリカは目に留めた。
「裏切った?」
「人種政策だ。…俺と言う国は「人」によって出来てた。それが「帝国」になったことで「民族」意識が高まり、他人種に対しての寛容は失われてしまった。…ずっと昔、俺がまだ「国」にすらなってなかった東方殖民の時代に戻ってしまった。人種だとか、信仰だとか、そんなもんどうだっていいじゃねぇか。国に、国家に必要なのは「人」だ。人がいなきゃ、国は動かねぇし成り立たねぇ。お前のところはそうだから、解るだろう?」
「解るんだぞ」
自分が内包するものは様々な移民や原住民、そして奴隷として入ってきた人々だ。未だに差別は根強く残り、格差はなくならないがそれをいつか埋めていけたらいい。アメリカは頷いた。
「俺はドイツの上司の気狂い染みた政策が気に食わなかったが、戦争自体には反対してなねぇ。…ベルサイユ条約の内容自体があんまりな内容だったしな。時を置かず、近いうちに戦争になるだろうとは思っていた。…俺は、自分の国民を平気で手に掛けるドイツが許せなかった」
本当にそれだけだった。それさえなければ、上司の命に背くこともなく、自分は膝を付き忠誠を誓うことが出来、陣頭指揮を自ら取り、ドイツの為に連合国と戦っていただろう。
「…君が「ドイツ」になることは考えなかったのかい?」
アメリカはプロイセンの赤を見上げる。赤は不思議そうに目を開いた。
「俺が「ドイツ」に?…なれる訳がない。俺とドイツはまったく異質の存在だ。成り代わることなど出来るものか」
「それは、「情」から来てるのかい?」
そこまで言うプロイセンのドイツに対する想いは何なのか…。アメリカには理解出来ない何かが二人の間にはあるのか…。そして、イギリスと自分との間にそれはなかったのだろうか…?
「「情」?…そんなものだったら、俺はもっと簡単に切ってただろうさ。自分の存在をいずれは殺すと解っていて愛せるか?ただの情だったら、躊躇いもなくドイツを殺せただろうな」