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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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たまごとボール

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小鳥は恋をしています。
 ですが、恋と言うには少々生々しい感情も抱いています。
 卵を産ませたいのです。小鳥の雄としての本能があの雌に卵を産ませたくて仕方がないのです。
 小鳥がその雌を好きになったのは、餌を分けてくれたからです。
 雌が自ら餌を貢ぐほどの情熱を向けてくれたのです。そんな経験は残念ながら今まで小鳥にはありませんでした。
 本来ならば、雄が意中の雌に貢ぐ行為です。そんな情熱的な雌に小鳥はすぐに恋に落ちました。それだけ餌が取れる優れた雌なのです。きっと立派なタマゴを産んでくれるでしょう。
 雌は他の雌達よりも遥かに大きな個体で、若木くらいはあります。流石に小鳥には大き過ぎるのですが、しかし雌の方が大きなことは良いことです。丈夫な雛を沢山産んでくれるでしょう。
 巣作りはかなりの労力になりそうですが、雌は良い巣も持ち合わせています。元々育った巣のようで中々快適です。必要なものを運ぶくらいならば、小鳥にも出来る作業です。雌は気だてもいいので、枯れ葉を運んでた時などは手伝ってもくれました。巣作り一つ雄が満足に出来ないのは恥ずかしいことですが、雌は共同作業が好きなようです。二人で作った巣というのもまた良いモノだと小鳥は思いました。
 雌のことを考えると一刻も早く逢いたくなるのです。小鳥は黒羽の友から飛び立つと雌の元へと羽ばたきました。


 雌は大きな体をしていますが、体毛はとても地味な色をしています。尾羽は木の幹のような色、羽は雪色、夜の色、土の色とよく変わります。季節によって生え替わるタイプなのでしょう。鶏冠は真っ黒の暗闇色で、瞳は薄い土の色をしています。
 自分のように鮮やかなお日様色をしていませんが、雌とは地味なモノです。希に雌が鮮やかな体毛をする時がありますが、威嚇でもしているのか険しい表情の時ばかりです。浮かれている時もありますが、発情期なのかもしれません。残念ながら、小鳥はそんな時はあまり雌の側に行けないのです。
 雌を探して空を飛んでいると、大きな箱の中に雌の姿を見つけました。羽の付け根の模様が美しい黒羽の友人もこの箱の中にいますが、雌もよく箱の中にいます。
 友人はこの箱をとても大事にしているので、ここが彼等にとって大切な場所なのでしょう。
 産まれた山や森、木のような存在なのかもしれません。空を飛べない彼等の生態は、小鳥には分からないこともありますが、そんな種族を超えても雌を愛しいと思う気持ちは変わりません。
 愛しい雌は突き出した石なのか、岩なのかわかりませんが、平らな何かに突っ伏して眠っているようです。
 この四つ足の平らな岩と、一部が切り取られたような四つ足を雌達は止まり木によくしているのを見かけます。小鳥にすればつるつるとした平らな表面は、収まりが悪く爪がカチカチと音を立て上手く掴まることが出来ませんが、爪を持たぬ雌にはよいのでしょう。
 カシャ、音を立てて平らな岩に降り立っても、雌は岩に顔を向けたまま動きもしません。どこか具合でも悪いのだろうかと、カシャカシャと音を立て、周囲を歩き回ってもなんの異変もありません。
「タケシ」
 雌の名らしいモノを囀ってもなんの変化もありません。小鳥は首を傾げると、地面に落ちている丸い物体を見つけました。
 首を傾げながら地面へと降り立った小鳥は、目前にある丸くて白い物体を眺めていました。
「タマゴ!」
 白くて丸いそれは小鳥ほどの大きさがあったが、位置といい雌が産み落としたモノのように小鳥には思えました。
 こんなところに大切なタマゴとは思っいましたが、目覚める気配のない雌を見ると、その初めての産卵の負担に小鳥は心を痛めました。小鳥が産まれた卵はつるつるとしていましたが、この種族の卵はざらざらとしているようです。小鳥の爪が引っかかるところがあって持ち運ぶことが出来そうです。平らな岩の上に巣らしきふわふわした物があったと、小鳥は自らと近いサイズのそれを足で掴むと慎重に飛翔しました。
 力強く細い羽を動かしながら小鳥は、白くてふわふわした巣にゆっくりと卵を降ろした。その上にちょこんと座り混むと今までの分を取り戻すべく温め始めました。





「十代目っ、いましたよ。この馬鹿、こんなとこで寝てますよっ」
「獄寺くん、もう少し小さな声で話しなよ」
 獄寺の先導で教室に入った沢田達の視界に入ったのは、机の上に突っ伏して眠っている山本の姿だった。共に帰ると約束したのだが、姿を見せない山本を心配して探しにきたのだ。
 よほど疲れているのか、眠いのか、耳元で先程から獄寺が騒いでいるというのに山本は起きる気配すらない。
「ん? なんだこれ」
 その机の上にちんまりと置かれている黄色い毛玉を獄寺は突いた。
「痛っ、てめぇ、なにすんだっ」
 丸く球体に近くなっていた毛玉は、突如オレンジ色の嘴を現し、突然の訪問者を鋭く突いた。
「ちょっと止めなよ、獄寺くん。その子、雲雀さんの鳥だよ」
 どこからともなくダイナマイトを取り出す姿に慌てて沢田は押さえるが、山本は起きる気配を見せないし、小鳥もそこから動く気はないようだ。
「雲雀の野郎の鳥だって、関係ないですよ、十代目」
 それを本人の前で言って無事に帰れる自身が沢田にはなかった。そもそも、こうして獄寺と共にいるだけで、噛み殺される対象に含まれるはずだ。それは、雲雀個人の資質のことであって、この小鳥にはなんの関係も落ち度もない。眠っていたらしいところを急に触られては、誰しも怒るだろう。
「ごめんね、眠ってたとこ起こして」
 そう小鳥に謝れば、威嚇するように大きく広げていた羽を仕舞い、また黄色く丸い玉のように丸まっている。
「ほら、分かってくれたよ。この子賢いなぁ」
 そのふわふわとした羽毛に触れても、小鳥は気にせずに丸くなったままだ。暖かくて柔らかい感触に心が和んでいく。
「どーだか、疲れただけですよ、十代目。うわっ」
 そっと手を獄寺が翳しただけで、小鳥は再び威嚇するように嘴を開いた。
「ほら、やっぱりこの子賢いよ」
 鳥は自らを攻撃した相手を忘れないというのは本当なのだろう。
「飼い主に似て可愛くねーぜ」
 悪態はついているが、それ以上小鳥には手を出す気はないようだ。
「でも、この子何を大事そうに持ってるんだろう?」
 ただでさえ丸い鳥だというのに、白いタオルの上で、何か丸い物の上に乗っている。その姿は、バランスの悪い雪だるまみたいだ。下にある物の正体が見たいが、とても見せてくれる雰囲気ではない。
「なんすかね?」
 獄寺が覗き込めば、やはり大きく羽を広げて威嚇をしている。自分を守っているというよりかは、大切な何かを守っているようなそんな必死さだ。
「ん?、ツナぁ?」
 もぞもぞと動き始めた黒い後頭部から、寝ぼけているためかより間延びした声が漏れている。
「ごめんねぇ、山本。起こしちゃった?」
「起こすなにも十代目、寝ているこいつが悪いんですよ」
 起きやがれと足癖の悪い獄寺が、今にも机を蹴り上げそうだ。慌ててそれを沢田が止めている。
「悪りぃツナ、寝ちまったみてぇで」
「朝練大変みたいだね」
作品名:たまごとボール 作家名:かなや@金谷