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醜形恐怖

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私は私がこの世で一番嫌いなのです。





ああしまった、と思った時には最早手遅れでした。
この久藤准という名前の生徒が毎日放課後にこの図書室に入り浸っていることなど十分承知していたのです。
しかし私もこの学校の教師ですし、校内の戸締りだって当番制で回ってくることがあるのです。
今日、最後の下校時間を知らせるチャイムはとっくに響き終わりました。
ですがこの生徒の場合、本を読んでいるときはどうやら一切の五感が遮断されるようなのです。
気持ちは解ります。私も本は好きですから。
そりゃあチャイムの音に気付かず読みふけってしまうこともあるでしょう。
彼の今日選んだ本が、たまたま面白いものであったなら尚更。
ただ子供達の中でいわゆる読書離れの進行する昨今。
他に彼ほど読書に夢中になる生徒などほとんどと言っていいほど居ません。
とどのつまりこの図書室には今、この読書に熱中しきっていた久藤君と、見回りを兼ねて施錠をしに来た私しかいないのです。
自分の担任するクラスの生徒ですから、ある程度の彼の人となりは知り得ています。
これまでに述べた通り本が大好きで、それに養われたのか想像力に満ちた物語を創り上げるのが得意で。
授業態度も成績も申し分ありません。
際物揃い、もとい少々個性的な生徒の多い私のクラスの中では優秀で、手のかからない生徒です。
ただ、教師である限り全く必要無く、且つ個人的にも絶対に手に入れたくなかった彼の情報と言いますか、気持ちを、彼自身の口からこの間聞かされてしまいました。
手のかからない生徒から、手のかけたくない生徒へのある意味格上げ、ある意味格下げです。
どちらにしても私はもう彼と普通に会話をすることすら困難です。
ですからこのような二人きりになってしまう空間を極力避けてきたのに、とうとう今、避けきることが出来ませんでした。





「先生。」
「・・・糸色先生。」
一度聞こえないフリをしたら、全く臆することもなく名指しされてしまいました。
「・・・はい。」
彼に背中を向けながら、いつもはそれほど神経質にすることのない窓の鍵をひとつひとつ確認していきます。
その間に帰ってくれるのをひたすらに望みながら。
ですが読んでいた本を鞄の中にしまいこんでしまっても、彼はその鞄を机の上に置いたまま立ち尽くしています。
「もう、下校時間過ぎていますよ。」
軽く咎める様に言ってみます。どうか早く帰ってください、という念を込めながら。
「すみません、ちょっと夢中になってしまったみたいで・・・。」
裏目に出てしまいました。
そう、彼は物語を食べて生きて、物語を生み出す天才なのですから、少しでもとっかかりがあれば会話を繋げることなど造作もないのです。
物語を食べて生きて・・・まるで彼を怪物の類の様に表現してしまった自分の心の内を責めながら、やはり怪物という表現は当てはまるように思いました。
私からすれば、今の彼は畏怖の対象となる怪物のようなものなのですから。
「でも、知らないうちとはいえ校則違反して良かったです。」
「滅多な事を言わないでください。あなたはこの学校の生徒ですから規則は守らないといけませんよ。」
全ての窓を点検し終わってしまいました。
仕方が無いので今度は忘れ物の有無を確認します。
といっても図書室に置かれた机は大きくて見通しが良く、点検というほどのことは出来ないのですけれど。
「・・・そうですね。すみません。」
仕方なく、私は一刻も早くこの状況を打開する手段を換えることにしました。
「もう閉めますから、出てください。」
「はい。わかりました。」
一緒に図書室を出て、廊下を途中まで一緒に歩く羽目になってしまうかもしれませんが、このままこの部屋にいるよりは低いリスクで済むでしょう。
彼も鞄をやっと手に提げてくれました。
あとはさっさと出口に向かうだけです。
「でも先生。」
「・・・ッ!」
そう思うと後ろから引きとめようとでもするように声をかけられました。
しかしここで立ち止まるわけには行きません。
「なんですか?」
そう応えながらも私はこの部屋の扉に向かいます。
すると急に前へ進むことが出来なくなりました。





彼が、私の腕を掴んだのです。





捕まれた事はわかりました。
しかし情けないことに一気に身体に力が入らなくなり、それを振り払うことも出来なければ抗議を口にすることも出来ず、最早無言で俯くことしか出来ません。
そんな私を知ってか知らずか、彼は私の腕を掴んだまま言いました。





「先生、先生もこの学校の先生なら、生徒を無視したりなんて、いけない事じゃありませんか?」





「無視なんて、していませんよ。」
なんとか声を出すことが出来ました。
そう、私は久藤君のことを無視などしていません。避けてはいましたけれど。
つい先ほどだって、教師と生徒としての立派な会話を交わしたではありませんか。
「していますよ。」
「していません。」
プライドなどと言う物は生まれてこの方持ち合わせたことなどありません。
私のような人間がそんなものを持つこと自体おこがましさに尽きるというものです。
ですが意地を張るのは得意です。
「していませんよ。・・・腕、離して頂けませんか。」
頑なに否定を重ねました。
ですがやはりこの生徒は私などより一枚も二枚も上手なのです。
「先生がこちらを向いてくれたら、離します。」
私は背中に嫌な汗を感じながらただただ図書室の出口へあと数歩の床を見つめていました。
いえ、顔がそちらに向いていただけで何も見えてはいないのですけれど。
目を堅く閉じ、奥歯を噛み締めて、浅く一呼吸。
そうして私は目を開けて、振り返りました。
「・・・・・。」
最早言葉など出てきません。
ただいつも穏やかな表情を湛えている久藤君の顔が少し緊張するように強張っているのがわかりました。
そしてそのまま私の目をまっすぐに見据え、しかし言った通りに掴んでいた腕を開放してくれました。
心持ちとしてはそのまま走り去ってしまいたかったのですが、私はその目に射抜かれそのチャンスを失ってしまったのです。
そして彼の口から発された言葉に、ますます動けなくなりました。
「ありがとうございます。やっと僕を見てくれて。」
まさか向き合っただけで感謝をされるとは思いませんでした。
それとも私がそこまで彼を追い詰めてしまっていたのでしょうか。
私よりいくつも年下で、何一つ教えることの出来た覚えはありませんが、それでも一応の教え子を。
そう思うと私の中でまたひとつ死に至るべき理由が増えました。
「先生。先生が僕を避けるようになったのは、僕があなたを好きだと言ったからですか?」
まるで授業中に質問をするのと同じような直球の問いにうろたえそうにはなりましたが、おかげで逆に私も授業での質問に答えるように言葉を返すことができます。
「ええ、その通りです。」
「ではどうして、好きだと言ったら避けるようになるんですか?」
「・・・あたりまえ、でしょう。好きだと言われたら避けるのは。」





私にはむしろ好きだと言われて避けない事のほうが理解できません。
だって好かれてしまえば、その次は嫌われることしか残らないでしょう。
作品名:醜形恐怖 作家名:ワタヌキ