二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

蜘蛛の糸

INDEX|2ページ/2ページ|

前のページ
 


 やがて、曲が終わったと同時に、携帯電話の振動も音も止んだ。一曲分はかかるようにでも設定されていたのだろうか、それとも相手がちょうどよくあきらめたのだろうか。定かではないが、部屋には再び静寂が戻った。
 臨也はようやくなり終わり静かになった携帯を拾い上げると、「ハイ、着拒ー」と鼻唄混じりで呟きながら手早く携帯を操作した。きっと同時にあの男のメモリーはこの携帯から消去されたに違いない。
 彼はそうやって携帯をいじりながら少しだけ振りかえると、波江のほうを見て、その口元に悪意のある笑みを飾りながら口を開く。
「波江さんってさ、結構薄情だよねぇ」
 何に対して、ということは何一つ言わなかったが、別にどうでもいいと思った波江は適当に返事をする。
「別に、そう思うならそれで結構よ」
 臨也のほうを向くわけでもなく、ただ事務処理を続けながら言った言葉に対して、感心したように彼は口元から悪意を消した。
「いや、有能な秘書だなって思っただけだよ」
 そういうと臨也は人懐っこい笑みを浮かべて、そのまま携帯をいじり始めた。もう頭の中にはあの依頼者…常連客だった相手がどんな人物でどんな情報をうったかなどは忘れているに違いない。いらなくなったらすぐにゴミ箱へ捨てるのがこの男だ。
 いらなくなったら切り捨てる、それは矢霧にいたとき自身もやっていたことだし当然のことだと思う。だがこの男はもっと外道だ。適度に甘い言葉を吐いて、人々の隙間に付け入る。なのに自分が何をしたかなど、すぐにどこかへ放ってしまうのだから。
 網を広げて、のばしては切る、つないでは切る。そうやってふやされ削られて、臨也がつかえそうだと判断したものだけが残ってる。あの携帯電話のなかには、いったい何人の人間が「人間の名前」として、必要として登録されているのだろうか。
(まぁ所詮私はピザ屋の番号にすぎないから関係ないけど)
 いつだって、そう、今すぐにでも捨ててしまえるくらいの関係だ。だから何かを思う必要なんてないのだ。
 雇い主は相変わらず携帯をいじったままだった。おそらく新しくなにか面白いことでも起こそうとしているのだろう。一つの楽しみが終わったらまた新しい楽しみへ、花から花へひらひらと移る蝶のように。いや、蝶というのはきれいすぎる気もする…あぁ、そうか。
(残飯をあさるカラスってところかしら)
 黒のコートをいつまでたっても手放さないこの男にはもってこいだと思いながら、波江はただ、キーボードをたたき続けた。その時仕上がった書類を確認しながら、この書類を送りつける相手もどうせ一週間で消えるんだろうとぼんやりと思った。
「書類、できたわよ」
 秘書はけだるげに雇い主に声をかけた。その時、彼女の頭の中からも先ほどの相手の名前は既に消え去っていた。
作品名:蜘蛛の糸 作家名:いとり