蟷螂の幸福
「うるさいっうるさいうるさい!俺の事なんて放っておいてくれ!」
ガシャン、と何かが落ちる音がした。その音に思わずベルを鳴らそうとした指を止めてしまう。
今の声は間違えなくルートヴィヒさんのもの。彼が外に聞こえるほどの大声で怒鳴るなんて何があったのがろうか。
少しためらってから結局予定通りにベルを鳴らす。すると中からルートヴィヒさんの兄であるギルベルトさんが姿を見せた。
「おお!本田じゃねーか!どうした?」
「ギ、ギルベルトさん!?」
いつものような笑顔で現れたギルベルトさんだったが、その姿は異様なものだった。彼は頬から血を流していたのだ。
「それは一体!」
「ん?大したことじゃねえから大丈夫」
「大したことです!」
その後、彼はその頬を治療するつもりがないと解った私は家の中に入れてもらい彼を治療させてもらうことにした。血は大量に出ているが病院に行く程のものではないことに安心する。
「これ、どうなさったんですか?」
「ちょっとうっかりして」
「…ルートヴィヒさんですか?」
「おう、うっかりルッツを怒らせちまった」
彼の頬を治療し終えると彼の指からも血が出ていることに気付いた。ついでに、とその指にも絆創膏を張る。
「何があったのか伺っても?」
「ああ」
「さっきルートヴィヒさんの怒鳴り声が聞こえました」
「ああ、アイツいま二階で仕事しててな。徹夜で何も食べてないから差し入れにパンとコーヒー持って行ったら怒らせちまった」
「…それだけ、ですか?」
「機嫌悪かったみたいでさ、ちなみにこれはコーヒーカップ投げられて」
そう笑いながら彼は切れた頬を指さした。
ルートヴィヒさんは普段すごく温厚な人だ。それだけで怒ってカップを兄に投げつけるなんて信じられない。しかし実際にルートヴィヒさんが怒る声も物が割れる音も聞いてしまった。
「ル、ルートヴィヒさん、そんなことするほど今日は疲れていらっしゃるんですね…」
「今日は、か」
「え?」
「いいや、別に」
コーヒーでも入れる、と言って立ち上がるギルベルトさんをぼうっと見てしまう。しかし、彼が何気なく伸びをした時に私はハッとして思わず彼のその腕を掴む。
「ほ、んだ」
「これは…何ですか」
「…」
私が彼の腕に見つけたのは痣だった。鮮やかな青色の。ぶつけた、そんな風にはとても見えない。先ほどのルートヴィヒさんの話を聞いた私には嫌な予感しか浮かんでこない。
「ギルベルトさん!」
「ルートヴィヒだけど?」
「っ!?」
「ちぇっ、ちゃんと見えない所に傷つけろって言ってんのに失敗りやがって!」
痛い、と言いながら私の手を払ったギルベルトさんは全く動揺した様子もなく答えた。私はなぜかその姿に恐怖すら覚え、思わず一歩後退する。
「ギ、ギルベルトさん!どういうことですか?」
「んー…秘密にしとけよ?」
キッチンに歩きながら話を始めた彼を見て、一先ず落ち着くためにもう一度ソファーに腰を下ろす。
ガシャン、と何かが落ちる音がした。その音に思わずベルを鳴らそうとした指を止めてしまう。
今の声は間違えなくルートヴィヒさんのもの。彼が外に聞こえるほどの大声で怒鳴るなんて何があったのがろうか。
少しためらってから結局予定通りにベルを鳴らす。すると中からルートヴィヒさんの兄であるギルベルトさんが姿を見せた。
「おお!本田じゃねーか!どうした?」
「ギ、ギルベルトさん!?」
いつものような笑顔で現れたギルベルトさんだったが、その姿は異様なものだった。彼は頬から血を流していたのだ。
「それは一体!」
「ん?大したことじゃねえから大丈夫」
「大したことです!」
その後、彼はその頬を治療するつもりがないと解った私は家の中に入れてもらい彼を治療させてもらうことにした。血は大量に出ているが病院に行く程のものではないことに安心する。
「これ、どうなさったんですか?」
「ちょっとうっかりして」
「…ルートヴィヒさんですか?」
「おう、うっかりルッツを怒らせちまった」
彼の頬を治療し終えると彼の指からも血が出ていることに気付いた。ついでに、とその指にも絆創膏を張る。
「何があったのか伺っても?」
「ああ」
「さっきルートヴィヒさんの怒鳴り声が聞こえました」
「ああ、アイツいま二階で仕事しててな。徹夜で何も食べてないから差し入れにパンとコーヒー持って行ったら怒らせちまった」
「…それだけ、ですか?」
「機嫌悪かったみたいでさ、ちなみにこれはコーヒーカップ投げられて」
そう笑いながら彼は切れた頬を指さした。
ルートヴィヒさんは普段すごく温厚な人だ。それだけで怒ってカップを兄に投げつけるなんて信じられない。しかし実際にルートヴィヒさんが怒る声も物が割れる音も聞いてしまった。
「ル、ルートヴィヒさん、そんなことするほど今日は疲れていらっしゃるんですね…」
「今日は、か」
「え?」
「いいや、別に」
コーヒーでも入れる、と言って立ち上がるギルベルトさんをぼうっと見てしまう。しかし、彼が何気なく伸びをした時に私はハッとして思わず彼のその腕を掴む。
「ほ、んだ」
「これは…何ですか」
「…」
私が彼の腕に見つけたのは痣だった。鮮やかな青色の。ぶつけた、そんな風にはとても見えない。先ほどのルートヴィヒさんの話を聞いた私には嫌な予感しか浮かんでこない。
「ギルベルトさん!」
「ルートヴィヒだけど?」
「っ!?」
「ちぇっ、ちゃんと見えない所に傷つけろって言ってんのに失敗りやがって!」
痛い、と言いながら私の手を払ったギルベルトさんは全く動揺した様子もなく答えた。私はなぜかその姿に恐怖すら覚え、思わず一歩後退する。
「ギ、ギルベルトさん!どういうことですか?」
「んー…秘密にしとけよ?」
キッチンに歩きながら話を始めた彼を見て、一先ず落ち着くためにもう一度ソファーに腰を下ろす。