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本田さんにつなぎ英をセクハラさせてみた件について

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 固く目を瞑って、ぶつ切りになりながらも言い切った後は赤面のまま俯いた。

 本田のその狼狽と、繰り広げられる言葉にようやく事態と行動の意味を知り、アーサーの頬も同じ赤さに染まる。先ほどとは違った意味で温度が上がっていった。
 言葉も出ない。要するに、彼のあの指も肌をさする掌も本当にただのマッサージであったのだ。
 事実がアーサーの背に重くのし掛かり、アーサーは叫んで隠れたい衝動に駆られる。色ぼけした自らの思考が二の腕と共に白日に晒され、その激しい感情の波に何もかもかなぐり捨てて消えてしまいたい、と願ったが元は自分の勘違いであり、今そんなことをしたらこの几帳面で生真面目な友人は不必要な自省で頭を垂れてしまうだろう。
 
 いつものそっけない言葉にみせかけて、火消しを図ることの何と情けないことか。おまけに、一度煽られてしまった熱はアーサーの下っ腹にまだ根付いていて、赤いつなぎの下で蠢いている。
 それさえも恥ずかしくて消えてしまいたくて、しかし隣の友人の顔の赤さから妙な責任感を抱いてしまい、自暴自棄な手段は一切捨てる事となる。

 「ま、紛らわしい」
 「すみません」
 言葉の切れが悪いのは、互いに胸を引き裂かんばかりの恥ずかしさを抱えているからだ。真っ赤になった二人は、テーブルを挟み意図せず淫猥になった空気に素面のまま耐えている。
 静まりかえったテーブルの上で、あのアイスティーがプラスチックカップの表面に水滴を滴らせ二人のこの空気を眺めている。

 「ごめんなさい」
 「俺こそ」
 互いにそう自らの軽率さを謝りあい、事態は一応の収束を迎える。いや、迎えようと二人が願っているのだ。
 それ以上の言葉を考え付くこともできず、彼が逃れるように再び緑茶のカップに唇をつけ、アーサーも緩和の為に息を吐く。

 羞恥の熱が去っていくと、それまで潜んでいた冷房の寒さがまたアーサーの背中に張り付く。再びあの悪寒がそこから手足の先まで伝播して、アーサーが再び奥歯を合わせてそれに耐えた。

 「なぁ本田」
 向かいの友人の名を呼ぶと、こちらはまだ寄せる羞恥に必死に対抗しているのか、カップの中に残った緑茶をちびちびと啜っていた。
 彼に触られていた左腕を自らの掌で擦ってみても、やはり同じ感覚は得られない。まだエアコンはそのエネルギーも気にせず部屋の温度を下げ続けていて、時間を経るごとにどんどん背筋から寒気は迫ってくるのだ。
 
 ああ、と心中で諦めの言葉を短く吐き出す。
 だって仕方ないじゃないか、寒いんだから!

 言い訳を寒さに対する障壁のように作り上げて、なおもあたたかな掌で頬を隠す友人に向けて、爆弾のような言葉を続けた。

 「もっかい、あっためてくれ」