普普が書きたかった
最近夢見が悪いんだ。そう言ってヴルストのペーストを塗ったパンを口に運びながらプロイセンは少し目を伏せた。ドイツがどんな夢なんだ?と聞いても内容はあまり覚えてないとしか答えないが、とにかく良い夢ではないことは確からしかった。いつもより少し顔色の悪いプロイセンを心配してドイツは横になることを勧めるが、また夢を見そうで嫌だと首を横に振るばかりで結局ドイツは何の解決方法も浮かばないまま慌しく家を飛び出す他なかった。
いってきますとバタバタ出掛けていったドイツを見送ったプロイセンは、がらんとした家を見渡してから何となしにリモコンを手に取るとテレビをつけた。朝のニュース番組をしっかり見るわけではなく、ただかけ流してぼーっとソファーに深く腰掛ける。ふと目に入った腕を見つめると、いつの間にこんなに細く白く貧弱な腕になってしまったのだろうと虚ろな顔でそう思った。腕だけではない、足も、胸板も、首も、何もかもが昔とは違う。筋肉だって落ちたし何よりずっとずっと細くなってしまった。それに昔はこんなに肌も白くなかったはずだ。髪の毛だって瞳の色だってもっと色素は濃かった。それが今ではどうだろうか。色素はすっかり抜け落ちたように薄くなり、弱弱しくさえ感じる。きっともう力ではドイツはもちろんイタリアにだって勝てないかもしれない。
そう思うと胸が抉られるように苦しくて呼吸が出来なくなる。自分はこんなにも弱くなってしまった。その事実にただ情けなさと悔しさともどかしさを感じて泣きたくなるのだった。
しばらく塞ぎ込むように顔を伏せていたプロイセンだったが、こんな風にぐるぐると考えているからきっと気持ちまで弱くなるのだ、こんな思いは日記にでも吐き出してすっぱり忘れてしまおうと思い立ち、何百年も前から続く日記に今日の出来事を書き加えるため自室へと向かった。
自室に着くなり昨日はどんなことを書いたっけなあ、と日記を開くと昨日のページには嫌な夢を見たという内容が綴られていた。それを見てまた気持ちが沈んでいく気がした。どんな夢だったのかは思い出せないが、ひたすらに嫌な夢だったということは覚えている。もやもやとした気持ちのまま日記に日付を書くと、最近ずっと夢見が悪いということ、自分の変化に嫌気をさしているということ、弱くなった自分の姿について思ったことをつらつらと書き綴っていく。そしてはたと、このままどんどん痩せて細くなっていくことでもしかして自分という、プロイセンという存在自体が消え行くのではないかという考えに至った。
その瞬間、ぞわっと背中に悪寒が走り、ぞくぞくとした寒気がプロイセンを襲った。
消える、というそのことにわけも分からず恐怖を感じて体が震える。ただただ怖いと思った。これほどまでの恐怖を初めて感じたかもしれない。
無意識にガチガチと鳴る歯を抑えることもできなくて、必死に自分で自分自身を抱きしめながら今は仕事に追われているだろう最愛の弟の名前を何度も呼んだ。
もしも自分が消えてしまう時が来たならあの可愛い弟は自分のために泣いてくれるだろうか。泣いてしまうだろうか。
「、ヴェスト」
目から涙がこぼれそうになって思わず瞼を閉じた瞬間、プロイセンの背中に何か重みをかけられた。突然のことに驚き振り返ろうとしたのだが、その前に後ろから腕が回されて思い切り抱きしめられるように力が込められた。
それは見知った感覚だった。というよりも、それをプロイセンはよく知っていた。いや、わかっていた。
「ああ、こんなに弱くなっちまいやがって。なあ?」
耳元に囁かれた声は、プロイセンそのものだった。
「、あ…」
目を見開いて見つめた視線の先には、見間違えるはずもない、プロイセンがそこにいた。今の自分とは違う、髪の毛も瞳も肌の色だって色素の濃い、腕だって足だって筋肉に覆われて身体もしっかりとしている昔のプロイセンが自分を抱きしめているのだった。その身体つきや格好から推測されるに、おそらく、おそらく継承戦争をしていた頃の自分だった。
「なあ、お前今怖いんだろ」
「は…?」
「自分が消失することが怖いんだろ」
ヒク、と喉がひくついて目が見開かれているだろうということが自分でもわかる。カラカラの喉から必死に声を絞り出して、なんで、とだけ言葉を発すると目の前の自分はくつくつ笑った。
「わかるに決まってんだろ?」
可笑しげに、だけれども当然といった風にぞんざいにその人は言った。
「おれはお前だ」
ああ、と頭で考える前になぜかおれは昔のおれにベッドに突き飛ばされた。あまりに簡単に縫い付けられて抵抗する暇さえない。自分の細く弱い腕が自分の太く逞しい腕に押さえつけられる。目の前には自分のひどく楽しげな顔が映ってた。その光景になんだか可笑しさがこみ上げてきて状況も気にせずくふくふと笑うと、なんだ余裕じゃねえかと噛み付くようなキスをされた。
驚いたが抵抗らしい抵抗はしなかった。ただ、自分の唇が、舌が合わさっているのにまるで別人とキスをしているような感覚に陥る。だけれども、あまりにぴったりと重なり合うその感触にこれは自分のものなのだと認識させられて、少し恥ずかしいようななんとも言えない気分になった。
抵抗しないのはきっと自分が自分を傷つけることはしないという考えが頭の中にあったからだろうと思う。どうして昔の自分がこんな形で現れるのか、常識では考えられないことだしきっと頭を冷やして考え直したらあまりにおかしいことだろうと思うのだろうが、目の前の自分はどう考えても自分であるし、おれに危害を加えることはないと確信していた。
だけれども、過去の自分が現れてそれが見えるということは、もしかしたら自分が消えるのも時間の問題ということなのかもしれないという嫌な考えが頭をよぎる。そのことを伝えに過去のおれは現れたのだろうか。そう思うと苦しくて痛くて顔が泣き出しそうに歪んだ。
今更死にたくないだなんて、馬鹿らしい。虫が良すぎるとは思わないのか?そうやって痛みを誤魔化そうとしたが、それを過去のおれは許さなかった。
おれが完全に身体を預けてしまって為されるがままになっていると、そいつはおれの身体を暴きながら全部曝け出しちまえと言っておれをズンと突き始めた。それに伴ってひっとあられもない声が上がる。抑えが効かない嬌声を上げながらシーツにしがみ付いて、与えられる快感に溺れそうになった。ぼろぼろと生理的な涙をこぼしながら、あ゛っあ゛っと言葉にもならない声をひたすらにあげていると、途切れ途切れにプロイセンは「怖いんだろ?死ぬのが、怖いんだろ?」とおれの恐怖を暴こうとする。
「言っちまえよ、怖いって。言っちまえ!」
「ひっ…うあ、あっ」
「今しか言えねえだろ?全部、思ってること、おれにぶつけちまえよ」
いってきますとバタバタ出掛けていったドイツを見送ったプロイセンは、がらんとした家を見渡してから何となしにリモコンを手に取るとテレビをつけた。朝のニュース番組をしっかり見るわけではなく、ただかけ流してぼーっとソファーに深く腰掛ける。ふと目に入った腕を見つめると、いつの間にこんなに細く白く貧弱な腕になってしまったのだろうと虚ろな顔でそう思った。腕だけではない、足も、胸板も、首も、何もかもが昔とは違う。筋肉だって落ちたし何よりずっとずっと細くなってしまった。それに昔はこんなに肌も白くなかったはずだ。髪の毛だって瞳の色だってもっと色素は濃かった。それが今ではどうだろうか。色素はすっかり抜け落ちたように薄くなり、弱弱しくさえ感じる。きっともう力ではドイツはもちろんイタリアにだって勝てないかもしれない。
そう思うと胸が抉られるように苦しくて呼吸が出来なくなる。自分はこんなにも弱くなってしまった。その事実にただ情けなさと悔しさともどかしさを感じて泣きたくなるのだった。
しばらく塞ぎ込むように顔を伏せていたプロイセンだったが、こんな風にぐるぐると考えているからきっと気持ちまで弱くなるのだ、こんな思いは日記にでも吐き出してすっぱり忘れてしまおうと思い立ち、何百年も前から続く日記に今日の出来事を書き加えるため自室へと向かった。
自室に着くなり昨日はどんなことを書いたっけなあ、と日記を開くと昨日のページには嫌な夢を見たという内容が綴られていた。それを見てまた気持ちが沈んでいく気がした。どんな夢だったのかは思い出せないが、ひたすらに嫌な夢だったということは覚えている。もやもやとした気持ちのまま日記に日付を書くと、最近ずっと夢見が悪いということ、自分の変化に嫌気をさしているということ、弱くなった自分の姿について思ったことをつらつらと書き綴っていく。そしてはたと、このままどんどん痩せて細くなっていくことでもしかして自分という、プロイセンという存在自体が消え行くのではないかという考えに至った。
その瞬間、ぞわっと背中に悪寒が走り、ぞくぞくとした寒気がプロイセンを襲った。
消える、というそのことにわけも分からず恐怖を感じて体が震える。ただただ怖いと思った。これほどまでの恐怖を初めて感じたかもしれない。
無意識にガチガチと鳴る歯を抑えることもできなくて、必死に自分で自分自身を抱きしめながら今は仕事に追われているだろう最愛の弟の名前を何度も呼んだ。
もしも自分が消えてしまう時が来たならあの可愛い弟は自分のために泣いてくれるだろうか。泣いてしまうだろうか。
「、ヴェスト」
目から涙がこぼれそうになって思わず瞼を閉じた瞬間、プロイセンの背中に何か重みをかけられた。突然のことに驚き振り返ろうとしたのだが、その前に後ろから腕が回されて思い切り抱きしめられるように力が込められた。
それは見知った感覚だった。というよりも、それをプロイセンはよく知っていた。いや、わかっていた。
「ああ、こんなに弱くなっちまいやがって。なあ?」
耳元に囁かれた声は、プロイセンそのものだった。
「、あ…」
目を見開いて見つめた視線の先には、見間違えるはずもない、プロイセンがそこにいた。今の自分とは違う、髪の毛も瞳も肌の色だって色素の濃い、腕だって足だって筋肉に覆われて身体もしっかりとしている昔のプロイセンが自分を抱きしめているのだった。その身体つきや格好から推測されるに、おそらく、おそらく継承戦争をしていた頃の自分だった。
「なあ、お前今怖いんだろ」
「は…?」
「自分が消失することが怖いんだろ」
ヒク、と喉がひくついて目が見開かれているだろうということが自分でもわかる。カラカラの喉から必死に声を絞り出して、なんで、とだけ言葉を発すると目の前の自分はくつくつ笑った。
「わかるに決まってんだろ?」
可笑しげに、だけれども当然といった風にぞんざいにその人は言った。
「おれはお前だ」
ああ、と頭で考える前になぜかおれは昔のおれにベッドに突き飛ばされた。あまりに簡単に縫い付けられて抵抗する暇さえない。自分の細く弱い腕が自分の太く逞しい腕に押さえつけられる。目の前には自分のひどく楽しげな顔が映ってた。その光景になんだか可笑しさがこみ上げてきて状況も気にせずくふくふと笑うと、なんだ余裕じゃねえかと噛み付くようなキスをされた。
驚いたが抵抗らしい抵抗はしなかった。ただ、自分の唇が、舌が合わさっているのにまるで別人とキスをしているような感覚に陥る。だけれども、あまりにぴったりと重なり合うその感触にこれは自分のものなのだと認識させられて、少し恥ずかしいようななんとも言えない気分になった。
抵抗しないのはきっと自分が自分を傷つけることはしないという考えが頭の中にあったからだろうと思う。どうして昔の自分がこんな形で現れるのか、常識では考えられないことだしきっと頭を冷やして考え直したらあまりにおかしいことだろうと思うのだろうが、目の前の自分はどう考えても自分であるし、おれに危害を加えることはないと確信していた。
だけれども、過去の自分が現れてそれが見えるということは、もしかしたら自分が消えるのも時間の問題ということなのかもしれないという嫌な考えが頭をよぎる。そのことを伝えに過去のおれは現れたのだろうか。そう思うと苦しくて痛くて顔が泣き出しそうに歪んだ。
今更死にたくないだなんて、馬鹿らしい。虫が良すぎるとは思わないのか?そうやって痛みを誤魔化そうとしたが、それを過去のおれは許さなかった。
おれが完全に身体を預けてしまって為されるがままになっていると、そいつはおれの身体を暴きながら全部曝け出しちまえと言っておれをズンと突き始めた。それに伴ってひっとあられもない声が上がる。抑えが効かない嬌声を上げながらシーツにしがみ付いて、与えられる快感に溺れそうになった。ぼろぼろと生理的な涙をこぼしながら、あ゛っあ゛っと言葉にもならない声をひたすらにあげていると、途切れ途切れにプロイセンは「怖いんだろ?死ぬのが、怖いんだろ?」とおれの恐怖を暴こうとする。
「言っちまえよ、怖いって。言っちまえ!」
「ひっ…うあ、あっ」
「今しか言えねえだろ?全部、思ってること、おれにぶつけちまえよ」
作品名:普普が書きたかった 作家名:みんと@ついった中毒