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遠く轟く雷鳴のように~この翼、もがれども~

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『知っているかい?シャカ。豊かな香気を放つ薔薇は見た目は素朴で華美ではないことを。けれどもその香りを嗅いだが最後、記憶に刻み込まれ、永遠の魅力に囚われるのさ。散ったあとも絢爛に咲き誇るのは傲慢なほどの美しさを見せ付けるそれよりも、実は野に咲く素朴で小さな薔薇なのかもしれないな……』
 
『――黙って付き従うこともできた。今までのように。けれども泡のように消させたりはしたくはなかった。彼が消え逝かないためにも私は……傷みを与えようと決めたのさ。傷みだけがきっと、虚ろな彼を埋める。この世界と私たちとを繋いでくれるはず。絆を断ち切りたいと願う彼には憎まれるだろうけれども。どれだけ憎まれても、疎まれてもいい。それでも私は――』

 強く、美しく、誇り高い花のように聖域で咲き誇るアフロディーテ。彼でさえも苦悩があったのか。人の心はとても複雑で迷宮のように。
 サガがシャカの前に現われたということはアフロディーテが動いたという証。今、この瞬間でさえも彼はサガを前にどれだけの傷みをその心に刻もうとしているのか――シャカは微かに感じた胸の痛みに顔を歪めた。
 さらさらと絹擦れの音に耳を傾けながら、横たわっていた躰をゆっくりと起こすと、シャカは長く伸びた髪を後ろに払った。中庭にある大理石で作られた台座から薄く瞳を開き、シャカはアフロディーテからの贈り物を眺める。誰にも知られることのない秘密の約束の証として送られた花はこの庭でかろうじて根付いている。
 不慣れな土地で季節外れに咲いた花。寂しげに風に吹かれ、儚くその花弁を散らせようとしていた。まるで道ならぬ愛の行く末のようにさえシャカには思えた。
アフロディーテの決意、覚悟…苦渋の選択。
 彼の選んだ道は彼が愛する茨のように鋭い棘で傷つけ、険しいものだろう。けれども、だからこそ価値があるのだと、容赦なく刺す棘によって傷だらけになった指先を隠しながら、きっと豊かな笑みを零すのだろう。そういう男なのだ、彼は。
 その強さは本物。シャカにはない強さ。きっと、恐らく得ることのできないものなのだろうとシャカは儚く哂うと、遠慮がちに風下の門から声を掛けてきた従者にようやく応じた。