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かなや@金谷
かなや@金谷
novelistID. 2154
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社長の異常な愛情

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それは月に一度の行事だった。
 他の社員にはない、平和島静雄だけの給与授与の儀式だった。


 それは入社した時から変わらずに、いや入社の際に条件の一つに入っていたもので、残りの一つの条件はその場で突きつけられたものだった。
 出来れば仕事中はバーテン服でというものだったが、これは静雄に取っては願ってもないことで、面接もその服で現れた静雄を社長が気に入ったからだと豪快に笑ったことを覚えている。
 制服みたいなモノだよな、と呟いた静雄に田中トムが微笑を零したことを覚えている。
 転々と職を変えてきた静雄だが、ここならば長続き出来そうだ、という何かをその遣り取りで感じていた。現に、未だに職を変えることはなくここで働いている。
 他の社員は振込であるのに対し、静雄だけが所長から手渡しされるのには意味がある。
 一つは彼の給与明細の長さである。明細というよりかは、損害報告書と言った方が良いそれは、今月静雄が破壊し会社で弁償した物品の一覧と総額が書かれている。初めは添付する予定ではなかったそうだが、所長の方からの願いで、総額を静雄に知らせることになっている。
 その額を給料から天引きすれば、マイナスしか残らないのだが、静雄の手元の封筒にはそれなりの金額が入っている。決して多くはないが、少なくもない平均的な額だ。
 初めそのことを静雄は問い詰めたが、それは社長の意向でもあるのだと説明された。一応、僅かな額だけが弁償として天引きされているが、微々たるモノだ。リボ払いのように借金として積み重なっているのかと思えば、そうではないと告げられたとき静雄はとても驚いた。
 だが、それに甘える訳にもいかずに、静雄は貰った給料から少しずつ返済の為の貯金をしている。
 そして、最大の理由が今、所長の掌にある電話だ。この日、静雄は直接社長と対話することになっている。これが、立て替えることの条件の一つだった。
「おはようございます。社長」
 所長により手渡された受話器を受け取ると、見えていないと分かっていても静雄は深く頭を下げた。静雄にとっては、田中トムと同様に社長も頭の上がらない人物の一人だ。
「おはよう、平和島君。ところで、怪我はしてないかね?」
 まず謝ろう、そしてお礼を言おうと構えている静雄の出鼻を挫くように、社長の一声は静雄の安否を問うモノなのだ。
「はい、怪我はして……、ないです」
「そうか、それはよかった。安心したよ」
 穏和そうな声がただ静雄を労るだけで、彼を責めるということはない。むしろ、責められるべきは自分にあると静雄は思っているが、社長がこの件で静雄を責めたことは一度もなく、ただ穏やかな声色が安否を問うだけだった。
 これが怒鳴られでもすれば、その言い分によっては静雄も切れてクビになるところだが、この穏和な態度にかえって萎縮し静雄はひたすら恐縮するしかない。
「あっ…… 社長」
「なんだい、平和島君」
「いつもすみません。絶対にお返ししますので」
 これもいつものやりとりだ。毎月繰り返されるそれを所長は書類を整理しながらに聞いている。
「いやいや、ちゃんとその分は天引きされているだろう? 気にしなくていいんだよ」
「いえ、額が違いますから、本当に、すみません」
「いやー、平和島君は真面目だな。確かに公共物を壊すことはよくないが、仕方なかったんだろう? 君みたいな真面目な男が起こすのだから、相手が悪いのだよ」
 社長は静雄を全肯定するのだ。聞かされる静雄自身がむず痒くなるほどのそれは、やはり彼の心に申し訳なさを募らしていく。
「すみません、社長。ありがとうございます」
「何を言ってるんだい。お礼を言うのはこちらの方だよ」
「えっ…………」
 静雄が礼を言わなければならないことは沢山あるが、社長から言われることはないはずだ。思わず漏れた驚愕の声を遮るように社長は続けて話した。
「聞いたよ、平和島君。切裂き魔から女子高生を守ったそうじゃないか、素晴らしいことだよ。私も鼻が高いよ、ありがとう、平和島君」
 あの罪歌の事件は、少女が病院に運ばれた経緯からそういうことになったらしいと知った。守ったというよりかは、喧嘩を売られたから買ったという方が正しいのだが、それを上手く説明することが出来ない。
「いえ、自分は…………」
「本当に君は慎み深いね、今時の若い子とは思えないよ。そういえば、その時に車の扉を壊したと聞いたけど、それも弁償したいのだが…………」
「いえ、それはダ……、知人の車なので、俺が払いました」
 知らぬ仲でもない門田達の車だったので、これは静雄が弁償することになった。車の持ち主の渡草は泣いていたが、あの場に居た門田達は全て仕方がないと言っている。なんでも、門田のツレ達の知り合いに安く修理して貰えるとのことで、請求された額はさほど高くはなかった。
「なんと、友人と手を合わせて少女を守ったとは……見たかったなぁ……」
「はぁ…………」
「そうだ。ならば、少女を助けたということで金一封でも出したいくらいだよ」
「いや、そんな、それは……」
 社長の申し出に静雄はどうしていいか分からずにいる。こんな時頼りになる田中トムは、この室内には居らず所長は無視を決め込んでいるようだ。
 ただ、断るにも気が引けるのだ。自分だけの問題であれば断るのだが、門田達に迷惑を掛けたことは確かだから彼等になにかあるのは嬉しい。
 微かに電話の向こうで玲瓏な女性の声が聞こえた。
『社長、お食事券などは如何でしょうか?』
「おお、それがいい。流石、私の秘書だ。お友達、皆で美味しいモノでも食べてくるといいよ。すぐ手配させよう」
「いや、そのお気持ちだけで……」
「何を言ってるんだ。今時、見ず知らずの少女を助けるために刃物を持った男に立ち向かう青年達など居ないのだよ。私はそういう男が我が社に居ることが嬉しいのだよ」
「はぁ…………」
 社長のこれには圧倒されてしまう。彼はとことん、静雄の所行を美化していくのだ。それはとても静雄の心に申し訳なさを積み重ねていく。怒る気力も沸かせなくするのだ。
「そうだな。その少女にもお見舞いを送ろう。怖かっただろうからなぁ……」
 また遠く小さくだが、美しい女性の声がこう告げている。
『社長、アミューズメント施設の招待券などはどうでしょうか?』
「流石だ、我が秘書よ。友達同士で遊びに行けば怖いことも忘れてしまうだろう。うん、良いことだ。早速、手配してくれたまえ」
「あ、ありがとうございます」
 純粋にこれは静雄には嬉しかった。少女があんな目に会うことは恐ろしいことだろう。少しでもその傷が癒されるのならば良いと思う。
 こうして見ると社長はこういう性格なのだろうと思う。よく感謝し、そしてそれを形に表すことが好きらしい。社員達にも給与以外にも金一封や、目録が出ると聞いたことがある。
 今まで転々と職を変えてきたが、長続き出来るのは田中トムとこの社長の存在が大きい。
「気にすることはないよ。君は我が社の英雄だからね。君がそうやって活躍すればうちの宣伝にもなるのだからね」
作品名:社長の異常な愛情 作家名:かなや@金谷