社長の異常な愛情
なにがどう宣伝になるのかは分からないが、一応静雄の弁償についての金額は宣伝費ということになっているらしい。社長曰く、静雄の強さが轟けばキチンと支払う者が増え、取り立ても上手く行くというのだ。現に、静雄が入社してからというものこの会社に取り立てを頼む店が増えているというのだ。マージンを支払ってでもお願いしたいと言うほど、この業界では名が知られつつある。
だから、社長は気にするなと言うが、なにか違うような気も静雄は感じている。
『社長、そろそろお時間です』
理知的な女性の声が微かに聞こえると、名残惜しそうに社長は別れの言葉を告げる。
「平和島君、また一ヶ月よろしく頼むよ。くれぐれも、怪我だけはしないようにね」
「はい、ありがとうございます」
何故、社長は怪我に拘るのかわからないが、いつもの挨拶を終えて所長に受話器を返した。
これで月一回の行事から解放された静雄は、仕事に出るべく事務所を後にした。これだけ良くしてくれる社長に応えるには、仕事をこなすしか静雄には出来ない。暴れるにしても、良い暴れ方をすれば社長は喜んでくれるだろう。だが、出来ればしたくはない。
ただひたすらに寛大な社長に感謝しながら、静雄は仕事へと戻った。
一人残された所長は、毎月の繰り返しを怪訝に思いながらも自らの待遇に不満の無いことを思い書類に目を通した。
平和島静雄の待遇以外は申し分もない。疑問があるとすれば、何故あの男が高待遇なのかということだ。社長が言うように確かに宣伝にはなってはいるが、カリスマ取り立て屋とかなどメリットはあまりない。
前に本社の女子社員達が、実は社長の愛人なのではないかと話していたが、電話の内容を聞くとそうとも思えない。彼等は数度しか会っていないのだ。
どちらかと言えば、テレビのヒーローに憧れているような感じだ。案外子供ぽいのかも知れないと、上司の穏和そうな笑顔を思い浮かべてから再び書類に向き合った。