Return to the dream
放牧地の真ん中で横たわったカスケードと、その腹にもたれたマキバオーの脇を、北海道の短い秋の風が吹き抜けていく。
久しぶりに日光を浴びたマキバオーは仰のいて目を閉じ、とても気分がよさそうだ。
「あまり無理はするなよ。体が悪いと、日を浴びるのも結構疲れる」
「んあ。大丈夫。とっても気持ちいいのね」
「……寒くなったらすぐに言え」
牧柵の向こうに、いつでも駆けつけられるよう、スタッフがひとり配されている。
マキバオーの受け入れを決めた本多が、すぐに牧場見学を中止したために、幸いにも一般の観光客はいない。人目や万一の事故を気にせず、マキバオーもゆっくり休めるだろう。
「こんなにくっついてたら、寒くなんかないのね」
「それもそうだな」
それきり互いに黙って、牧草を揺らす風を楽しんだ。
顔をあわせればいつも勝つだ負けるだと、余裕などまるでないやり取りをしてきた相手と、こんなゆったりとした時間を共に過ごすことになろうとは、夢にも思わなかったというのが正直なところだ。それでもじわりと腹に感じるぬくもりに、こんなのも悪くはないか、とカスケードは思った。
どれくらいの時間、そうしていたか。
「マキバオ~!」
平和な空気を、向こうから駆けて来る三枝の歓喜の声が乱した。
うるさい奴がまた来たな、とカスケードは辟易したが、日に日に良くなるマキバオーの体調のことを思えば、若者のはしゃぎようも理解できなくもない。
だが、ありがとうありがとう、君のおかげだとまた抱きつかれんばかりに感謝されるのは御免こうむりたかったので、カスケードは寝たふりを決め込むことにした。
「わかぞうくん、今日も来てくれたのね。あっ、なんかしまじまたちも来てる!」
マキバオーの思いがけない言葉に、片目だけ開けて様子を窺う。三枝の後ろから、以前マキバオーの周辺でよく見かけた競馬記者たちが本多と共に歩いて来ている。
また面倒なことになりそうだ、と帝王は小さくため息をついた。
作品名:Return to the dream 作家名:ぽち