ちゃんと世界を閉めていけ
彼はしばらく目を瞑り沢田の顔の表面の、貧相な凹凸で遊んだ。鼻先を頬に押し付けたとき不意に濡れた感触を肌に覚えたが、ほうっておいて遊びを続けた。ようやく満足した雲雀は顔を離し、予想たがわず涙に濡れそぼっている沢田の真っ赤な顔を拝む。間抜け面、そう思った数秒後、雲雀は肩を震わせた。雲雀を戦うこと以外で心の底から笑わせることができるのは腕の中にいる沢田だけだということに気づいているのは世界で何人いるのだろう。
雲雀はただ笑う。その彼の中ではめまぐるしく言葉が飛び交っていた。神、漫画、地獄、天国。人間よりスケールがでかいだけで全人類を信仰させられぬ全能ではない神様、全人類を楽しませることができない漫画。あるのかないのか死んで見ないとわからない死後の世界。なんて曖昧な世界に自分はいるのかと雲雀はあきれまた笑いがこみ上げる。ああ、大嫌いだこんな世界は、全く、確かなものは己だけ!
「心中とは、違うよ。僕は君より先に逝きたいだけ」
君の間抜けな死に顔を拝見できないのはつまらないだろうけど、君を思いっきり泣かせてみたい。
そういうと雲雀は抑える気もない笑い声を混じらせながら、全身を沢田綱吉の上にかぶせた。うめき声にいっそう艶やかに笑む。
自分の涙が沸騰してこめかみを焼いていく感触と笑い続ける可愛い想い人への憎たらしさを沢田は覚えた。蛇口から水を思い切りひねり出すように最低ないじめっ子、と雲雀をののしる。ののしり泣き、沢田は笑った。その顔を見て雲雀は、いっそ今死んでやりたいと心から笑った。雲雀はこの瞬間一方的な契約を結ぶことに成功したのだ。
「いいよ、ヒバリさん」
いるのかいないのかわからないものが存在したりしなかったりするこの世界が嫌いである自分。それを知っていて、その世界に自分をおいていける沢田綱吉が生まれた確率は、カミサマの存在率より低かったのか高かったのか。
雲雀は等に知っていた。
君がちゃんと閉めていってね、僕が大嫌いだった、でも君がいたこの世界を
作品名:ちゃんと世界を閉めていけ 作家名:夕凪