まがれっ!
カン、カラーン。
俺の手元でぐんにゃりスプーンが曲がったかと思うとそのまま留まるところ知らず、これ以上曲がるのは無理だとばかりにスプーンが折れた。
古泉は俺が持っているスプーンに一瞬触れただけであっさりと曲げたのだ。
「……マジか」
スプーンに向けられていた目線が俺にシフトし、その顔には極上の笑みが浮かぶが、喉元から発せられる押し殺した笑い声はあまり気分が良くない。
事情は察するが、あの場でこれをやってりゃ四十分もスプーンと対峙するこたなかったのにと思わせられるぞ、嫌みったらしいったらない。
「マジですね」
「三年前にスプーン握らされたというのは、もしかして超能力の特訓でもあったのか?」
「いえ。あの能力以外に持たされた能力がないかと、本当に検査を受けただけです」
「最初から出来たのか?」
「うーん」
古泉は落ちたスプーンの残骸を拾い上げて手のひらで転がしつつ考えると
「なんとなく出来るようになっちゃいましたね。このようにスプーンの頭を落としてしまうのは、おそらく上手い方ではないんでしょう」
「お前、たまに人間じゃないよなあ」
「人間ですよ」
古泉は少し悲しそうな顔をしたが、俺の呆れたような困ったようななんとも言えないカオを見て、また「ふふっ」と笑った。「涼宮さんには秘密ですよ」とでも言うような、悪戯感覚の笑みが見えて、俺も苦笑せざるを得ない。
どうやら本物の超能力者も、持たされた能力に甘んじず羽を伸ばす事のない退屈な日々を送っているようだった。
まったく、非現実とはどこにあるものかを問う日常の、如何に異常な事か?
- end -