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オミ[再公開]
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novelistID. 829
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まがれっ!

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 笑いたくても笑えない。こいつの脳内はいろいろとガチだ。

「ダメですぅ、ちっとも動きません」

 どうやってそんなに頭に血を上らせたのか、朝比奈さんが真っ先にダウンした。この人も大概真面目だ。
 次に、長門が散々ハルヒの見てないところで曲げたスプーンをコツンと音を立てて机に置いた。音を立てたのは部員の一人としてアクションがあった事を知らせるためらしい。勿論、ハルヒの視界の外では散々曲がりくねったスプーンだが、それはきちんと元の状態に戻してだ。

「力学的には不可能」
「信じる力がパワーを生むのよ! 諦めない!」
「思念、アプローチ、願望……」

 長門には自分の持っている反則的能力以外に思い当たる節があったらしい。スプーンを取り直すと、今度はハルヒを監視し始めた。

「あ、あのう……長門さん、スプーンに呪文をかけたみたいです」
「なんですと」
「きっと、曲がらないようにしたんだと思いますけど……」

 そうか。スプーン曲げは超能力に数えられる中でも最も著名なマジックだ。実在する、出来るかもしれない、と思ってしまったハルヒは本当に曲げてしまう可能性がある。他のメンバーにもそれは適用される事なのだが、長門はハルヒのスプーンにのみ呪文をかけたようだった。
 古泉は席に戻って「ふふ」と笑う。さっきまで人の左手を握って形を整えたり、指先を操作して案内したり、妙に甲斐甲斐しくて気持ちが悪かった。。

「握り方や思念で曲がったら苦労はないな」
「あなたに万が一の能力があれば、コツ一つで曲がる事もあるかもしれません」

 それを聞いた長門がすかさず俺のスプーンを見据えて口をもごもご動かした。かけられたらしい。古泉も長門の仕草に気づいたようで、苦笑している。
 俺に超能力が備わっていたとしても絶対にスプーンが曲がらない保障ができてしまった。少しばかり残念に思ってしまうのは、俺にまだ漫画や小説の世界を期待するエンタテイメントな気持ちが残っている証拠だ。
 正面の古泉は変わり映えない笑顔とピントの合わない目線でスプーンを見つめていた。位置関係のせいで、スプーンを透かして見つめ合う形だが古泉は意に介していないらしい。
 さっき俺に教えてくれたスプーンの握り方は一切無視でただスプーンをつまんでいるだけだ。少し姿勢を崩して、所在なさげにスプーンを見つめている。ぼんやりとした薄目で。
 こんなアホな事してる時でもつくづくハンサムだ。美少年というにはちょいとばかし胡散臭い性格はなんとももったいないな。薄く開いた目は時々瞬きをする。
 口角を上げて笑っているように見せかけているが、唇を突き出しているのがヒマさを強調している上、無駄にアンニュイに見える。全体として明らかに何も考えて居ない、面倒通り越して眠たそうな印象だ。
 実際そうなんだろう。指先が時折置き場に困ったかのように擦り合わされてスプーンの角度がゆっくり変わるが、それ以上の変化はない。
 瞳のピントが合ったかと思うと、それは俺に合わされていた。
 ああ、古泉に念を送ってても何が起きるわけでもなかろうしな。スプーンに目線を戻すが、やはりヒマでヒマで、結局スプーンを手のひらで転がしながら周りの様子を伺ってしまう。

「やぁめた! 無理無理ね」

 ハルヒが叫んで両手を机に投げ出した。気づくと朝比奈さんは既に机に突っ伏したままスプーンを玩んでいて (それでも健気にスプーンに送る視線は忘れていなかった)、長門も読書に戻っていた。

「やたら静かだし、スプーン曲がらないし、もっと変化の大きい実習を選定すべきだったわ。今日は悔しいけどあたしの失敗かもね」
「そんな事はありません。まず、際立って敏感な超能力者がこの中には居ないという結果が残されました。無駄な活動ではなかったと考えます」

 言ってるそいつが超能力者なんだから世話がない。ノッてる時のハルヒもそうだが、古泉のポジティブシンキングとタヌキっぷりには頭が下がる。
 ハルヒが路上で手当たり次第にスプーン配り始めたらどう責任をとってくれるつもりだ。

「そうねえ……あたしとしちゃ、もっと早い結果が欲しかったんだけど。ま、そんな簡単に見つかってちゃ探す意味がないわよね。そもそもこの中にもしもそんな特技持ってる人が居て、これまで黙ってたなんて言おうものなら罰金ものよね」

 さっきまでハルヒに熱烈な視線を送られていたスプーンはあっけなくカランと机にこぼされて、ハルヒが立ち上がった。

「今日の実習は終了! お疲れさまでした。各自、本日のレポートを明日までに提出。以上!」

 俺達の机に盛られたスプーンの束はそのままで、ハルヒは一人鞄を担ぎ上げて部室を出て行った。レポートなんて言われても何を書けばいいんだか。
 何を書いても「キョン。これが本当にSOS団の後世の役に立つと思って書いたモノだって言うの?」とかなんとかケチつけられるだけだろうし、他の三人の書いてくるレポートを期待するか。

「もう下校の時刻が近いですし、片付けてもいいですか」

 朝比奈さんがのんびり立ち上がって、各人の湯飲みの中身をチェックして回収し始めた。

「スプーンはどうしようかな……置いておけばデザートがある時に使えますよね。そうしましょう」

 SOS団のミニキッチンを担う身としては、新しい食器はやはりウキウキするものらしい。買ってこられた動機はいささか不純だが、こうして本来の役割がまわされるのならスプーンも願ったり叶ったりだろう。
 長門が本を閉じて鞄を持つと、俺と古泉も立ち上がって下校準備となる。朝比奈さんがカチューシャを外して髪をふわふわ整えているのを見ながら部室を出た。

「どうでした、今日の活動は」
「聞くまでもねー事聞くな。非常に不遇な時間だった」
「ゲーム盤やカードでも出してこようものなら、涼宮さんは大層お怒りになった事でしょうしね」
「まったく、将棋でもやってた方がマシだったな。一体どれだけの時間をスプーン一本に取られた事か」
「四十二分三十六秒。これは最も長く集中していた朝比奈みくるのタイム」
「……そうか」

 確実に正答を返してくれる長門はいいんだが、その正答は忘れたフリを出来ない現実を突きつけられているようで時々げっそりするぞ。

「四十分もスプーンとにらめっこかよ……なんと無駄な時間だ」
「ふふ」

 古泉が笑いとともにスプーンを取り出した。持って帰ってくんなよ。

「途中、僕の事見ていたでしょう。ひょっとして、曲げられるとでも思われていましたか?」
「期待はしてない」
「これ、持っていて下さい」

 スプーンを突き出される。受け取らずに眺めていたら、あいている片手にスプーンを持たされた。

「見える位置に手を上げて下さいますか」
「お前、まさかと思うが」
「そのまさかですよ」

 慌てて長門を確認するが、古泉の挙動に気を取られているという事は無く、長門の介入はないようだった。

「気をつけて下さいね、出来れば少し斜めに向けておいていただいて……」

 古泉はそこから手を伸ばして、指先でスプーンの柄の細い箇所に触れた。
作品名:まがれっ! 作家名:オミ[再公開]