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オミ[再公開]
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novelistID. 829
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弱い理由

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 目の前で区切りがついてパタパタと反されるチップ。相手が居るなら、か。真っ先に朝比奈さんが思い浮かんだが、きっと彼女はその頃にはこの時間軸には居ないし、長門だって緊急事態に泡食ってるかもしれん。とは言え、ただのたとえ話、遊びで考えている話なんだからそんなリアリティは必要ないんだ。
 俺もいい加減『世界』だの『神』だの『ハルヒ』だのに侵食されちまってる。
 古泉は涼しげに想像の翼を広げている。笑顔一つでもくるくると表情が変わるもんだ。

「いつものように過ごすというのもいいなと思っていますよ。この部室に集まって、本当にいつものように。世界が終わるから合宿だ、って。本当になんでもない事のようにね」
「ああ。ハルヒなら言い出しそうなもんだ。それどころか、世界を救うんだとか騒いでデモ行進始めるとかな」
「あなたは想像力豊かですね。いや、お見逸れします」
「お前に言われたくない」

 そもそもこの話を始めたのだって古泉だ。人の事が言えたものか。

「ま、ハルヒのバカ騒ぎに付き合うのはごめんだ」
「おや。僕としては、男らしく涼宮さんについていてあげてほしかったのですが」
「黙っとれ。ハルヒにつくぐらいなら朝比奈さんにつく」

 端を取って、白、白、白。

「もしかしたら、涼宮さんが独り占めしているかもしれませんよ? 朝比奈さんも、長門さんも。僕も副団長ですから特別任務があるかもしれません」
「はぁ。大変だな」
「あなたもですよ? 雑用係を申し付けられていたでしょう。あなたが思っている以上に大切な役割だと考えていますが」
「だから、俺はハルヒの悪行には付き合うつもりはない。今でも沢山だ」
「ならば、あなたは逃げるんですか?」
「逃げるさ」

 まったくもって、興味のない展開だ。最後までハルヒをなだめてハルヒから逃げたい人生なのだと古泉の口から聞かされるとは。

「では、僕もそうしましょう。涼宮さんを連れて、行けるところまで行ってみましょう」
「お前はなんでそこでハルヒなんだよ」
「いけませんか? あなたが「今でも沢山だ」と仰るので、要らないなら貰ってしまおうかと。僕も男ですから、身近でもそういう縁のないキュートな女性が自分を縋ってくれるとなったら、きっと嬉しいです」

 ハルヒは古泉の神だから。神をその手におさめて逃げる、そんな背徳的な行いを古泉は妄想していたのかもしれない。口にせずとも、哀しげで少し自棄な雰囲気を孕んだ目元は、善からぬ事を考えている風に見えた。
 リアルに際した遊びの話だとしながら、古泉自身がリアルと重ね合わせている事は明白だった。

「趣味が悪い。お前も選べるなら朝比奈さんに行くだろう」
「朝比奈さんは、あなたが連れて行くのでしょう?」
「じゃあ長門は」

 思えば、朝比奈さんや長門にも自分の意見があるだろうが、ここではあまり彼女らの自由意志が考えられていない。ま、男二人のたとえ話だし、長門に自由意志があるかと言えば……一つ基軸を守っているだけで、他に関しては薄い方に思える。

「長門さんについていったら、本当に世界の終わりを眺める羽目になるかもしれませんね。彼女は最終兵器のようなものじゃありませんか。終わった世界を二人きりで眺めるなんて、恐ろしい話です」

 二人きりで世界の終わりを眺める。そんな漫画があったな。古泉は世界を救う参考に、漫画作品も余さず読んだのだろうか。
 まるっきりセカイ系のハルヒと長門をセットで置いておくのが一番得策な気がしてきた。考えてみれば世界の終わりと顔を突き合せて、最も問題のなさそうなコンビだ。ハルヒはどうしてたった一人を選ばせるのかと不満の声をあげるだろう。長門は何も言わずに、託されたハルヒの腕を掴んで離さない。
 そうして世界が終わるなら、次の世界があるかもしれない。
 ならば、俺はどうしたものか。古泉が先に挙げていた、行った事のない場所へ行くというのも悪くない。

「ハルヒとかを除外して考えるなら、旅に出るか……家でお袋と妹と一緒に過ごすさ」
「寝るのではないんですか」

 意外そうに言うがな、他の選択肢を出して話を広げたのはお前だ。

「お前は俺にハルヒをつけるか一人で寝るかのどちらかであってほしいらしいな」
「いえ、そんな事は。えーと、旅というのは一人旅で?」
「世界の最後だろ。女の子がついてりゃ、そりゃドラマチックで面白そうだとは思うがな。ハルヒ周辺の身近な人間を除外すれば、残念ながら他に心当たりがないんでね」

 別世界のことのように、ゲーム盤の上でチップがくるくると反転する。古泉が思いついたように明るく声をあげた。

「部室にあなたが居ないなら、僕もきっと旅を選びます。涼宮さんをさらっていっても、朝比奈さんや長門さんはいつの間にか来てくれそうですし、あなたもやっぱり加わってしまうと思うのでね。だったら僕も一人で旅でしょう」

 確かに、ハルヒをさらったとしても一人で出たとしても、必ずどこかでこの五人が揃ってしまうんだろう。ハルヒの特性を痛いほど理解しているようだ。いつも通りでない事を選ぶなら、古泉は旅を選ぶしかない。
 一人よりは二人、などと言った口がもう意見を変えている。古泉らしからぬと言えよう、こいつは余計な事と薀蓄込みの意見は言うが間違いや訂正すべきような事はあまり言わない。意見が変わることは珍しい。

「一人旅同士ですか」
「ああ」
「旅は道連れ、世は情けと言いますね」
「これは世が終わると仮定しての話だったけどな」

 気づくと、ゲーム盤は珍しく古泉が操る黒が多くスペースを埋めていた。非現実的な考えに没頭しているとゲームに弱くなるんだと今知った。

「お前、今度一切無駄口叩かず考え事せずに俺とオセロやってみろ」
「お言葉ですが、あなたは強いですよ。僕は考え事こそしますが、打つ時はちゃんと手を考えて打った上で負けています。……世界が終わる想像、というのは意外な話題でしたか?」

 意外というかより、考えさせられた。そんな馬鹿げた事すら本気で考えられるような境遇になっちまったんだとしみじみ自分が哀れになる。

「本気で。……そうですか。 もしも。万が一万策尽きて世界が終わってしまう時を本当に考えたとしたら、あなたはどうします?」
「お袋と妹と、家で過ごす。……そうでなきゃ、まだ行ってないところへ行くさ」
「僕もこの部室でいつも通りといかないなら、旅に出てみますよ。一泊と半分程度の短い旅ですが、あなたについていってみるのも面白いかもしれません」

 男二人旅とは萎びた話だ。元・世界の救世主と二人か。もしかすると形勢逆転で世界が救われる瞬間も見られるかもしれん。

「万策尽きた場合の話なのに」
「それでも、お前は最後まで世界を守ってるような気がしてな」

 古泉は曖昧に笑った。
 世界が終わる瞬間に死力を尽くした男は、いつも笑っている。あの時はどんな顔をしていたんだろう。古泉がどんな様子でも笑顔を絶やさない間は多分、

「そうでしょうか? 僕がそんなに正義感の強い人間に見えますか?」

 世界は、平和なんだろう。

- end -
作品名:弱い理由 作家名:オミ[再公開]