世界が終わる夜に
シンジュク
仮面ライダーってこんな感じなのかなって思う。
気がついたら改造されていました。そんな時って必ず病院のベッドだよね。そんな感じで目が覚めたんだ。
初めて視界に入ったのは、掌。刺青みたいなのがある。どうも全身に広がっているみたいだ。刺青っていうよりも、血管みたいだなって思った。最初驚いたけど見慣れてきたら格好いいかもって思うようになってきた。
でも着ていた服どこ言ったんだろう。鬼T気に入ってたんだけどなぁ……
まだこん時は事態がよくわかんなかったし、結構楽観してたんだよね。そんなことよりも、暗い病院の地下室ってことのが怖かったんだ。だってお化けでそうだもん。まあ、自分の方がお化けになってたんだけどさ。
なんか音のする部屋に入ったら、公園で出会ったヒジリさんが居たんだ。なんかちゃんと肉体がある人初めてだ。思念体っていうの人魂みたいな人たちには会ったけど、ってあれ幽霊だよな、よくよく考えてみたら…… こ、怖くねぇよ。
なんかヒジリさんが一方的に色々と押しつけてくる。言ってることがよくわかんない。そういう時って大人が闘うもんじゃねぇの? って思うんだけど、俺、力なんか無いよ。この刺青が『力』なのかな……
まだこの時はアクマってのに会ったことなくて、なにと闘うのかよく分かってなかったんだ。
なんか煩いからとりあえず引き受けて、その前にヒジリさんがいるならみんなもいるだろうって、エントランスに行ってみることにしたんだ。
そういえば、こうなる最後の時、先生に屋上に呼ばれる前、エントランスには千晶も勇も居なかったなぁ……
エレベーターに乗ったら赤い部屋だった。下水道のような、体内のようなそんな真っ赤な場所だった。
怪しげな場所で車椅子の老人と喪服の女が手招きしている。ものっそ怪しいけど行くしかないんだろうなぁ
後々思うことなんだけど、「ニンゲン」の形してるのってずるいよなって思う。なんかそれだけで気が緩くなるんだよね。こう初めから人型じゃなければいいのにって思うよなぁ。
犬の形とかしてたら、ほいほい着いていくけどね。もっと……
初めてアクマに襲われました。なにがなんだかわかんないけど、敵らしいです。いきなり殴られた。
怖くて怖くて、とにかく殴った。殴り返した。
殴るとさ、相手もうげって声上げるのな、で、ずしんと拳に響くんだ。相手も殴られて痛いだろうけど、結構こっちも痛いんだなって思った。
拳がねじんじん痛んでね。それでも、怖くて殴り続けたんだ。じゃないと、もっと痛いんだもんなぁ
なんか気がついたら消えてしまって、死ぬっていうか消滅するんだって思ったら体が震えたんだ。
思念体の女の人がいて、回復頼まれたからしてあげるって言われた。
なんか、これも含む全て何者かの掌の上なんだと思うと腹が立つんだけど、その時はそんなこと考える余裕無くてさ、ただ震えていたね。回復して貰ったら体の痛みも取れたのに、拳とね胸が痛いんだ。
震える拳を抱き締めながらね蹲ったんだ。回復のおねーさんが、落ち着くまでいたらと背中を向けてくれたから、落ち着くまでそこにいたんだ。
そこからは殴って、殴って気がついたら元のエレベーターの前だった。とにかく、エントランスに行ってみたら出られなくなっていた。なんか、人間がいるとか居ないとか言っていたから探して見ることにしたんだ。
みんなも同じなのかよくわかんないけど、セオリー的には合流して力を合わせて脱出するんじゃないかと思うんだ。
アクマって話せるのな。
小さな、小さな人形みたいな妖精が、それにしてはきわどい姿してるんだけど話掛けてきたんだ。小さな彼女はとても生意気な口を聞くのだけど、それでも一番欲しい言葉を僕にくれたんだ。
「いっしょに行ってあげてもいいよ」
誰も一緒には来てくれなかったから、嬉しかったんだ。そして、共に闘ってくれることがとても嬉しかった。
小さな体に似合わず彼女は強かった。魔法が使えるんだ。少しの傷くらいなら治してくれたし、びりびりする魔法で敵をしとめてくれた。
なによりも、一番は色々なことを教えてくれだんだ。彼女が話しかけてくれなかったら、教えてくれなかったら、もう自分は死んでいたかもしれない。たった一人で死んでいただろう。
それからは色々とアクマと話してみたんだ。仲間になってくれる奴や、モノをくれる奴や、要求されたりとか色々あった。結構話せば良い奴だったりするのもいて楽しかった。気の良い奴とパーティーを組んでここのボスを倒そうってことになったんだ。
一人じゃないってことが嬉しくて、エイみたいなアクマを倒したんだ。
ようやくここを出れる、この異界となった病院を出られるって思ったんだ。
そういえば、エイが隙をついてニンゲンに出て行かれたって言っていた。誰なんだろうそのニンゲンは、でも誰かが外に居ることはわかったんだ。
誰でもいい、会いたいって思って外に出た。
そこはもう自分の知っている東京じゃなかった。
またあの少年と老婆が僕の前に現れた。
なんか話しているけど頭に響いてこない。よくわからない、処理しきれない。とにかく、世界は変わってしまって、誰も、人間がいなかった。いや、生物が居ない。
だから、アクマ達はニンゲンが居ることに驚いていて、それを覚えているのだと理解した。知り合いの思念体にも出会った。みんな、みんな居なくなってしまった。なにもかも全てが消えてしまった。
僕に残っているのはここまで付き合ってくれたアクマ達だけだ。
あとは病院を脱出したという誰かだけだ。
妖精との約束の場所ヨヨギ公園にたどり着いた。彼女とはここでお別れという話だった。だけど、どうしてもその手を離したくなかった。
彼女は少し笑いながら、もう少しだけ付き合ってあげると言ってくれた。
改めてよろしくと差し出す小さな掌に指を重ねて僕は誓ったんだ。
とにかくこの世界を彼女と共に生き抜こうって……そう誓って笑ったんだ。