世界が終わる夜に
追いかけたくても、俺達はボロボロで動くことも出来なかった。だってこれ以上戦いがないと分かった時点で浮かんだの助かったって言う安堵だけだよ。手を抜かれてるって言われても悔しいより、助かったっていうことしか浮かばなかったもん。
行ってしまった後ろ姿を見つめながら、初めて会ったのにと歯ぎしりした。戦闘のことよりも、話せなかったことのが悔しかった。
だってさ、初めて会ったんだよ。
初めて、知り合いじゃない人間の生存者を見たんだ。それまで生きているって分かっている人間はみんな受胎前に会ってるんだ。だから、初めてだったのに…………
もしかしたら、まだ生きている人がいるのかも知れないって思ったのに…………
勇には悪いと思ったけど、こっちも生きるか死ぬかの瀬戸際だった。なんとかアクマの追撃をくぐり抜けて泉に辿り着いた。充分に回復してから、ターミナルに引きこもった。
みんな怯えていた。まずアクマを従えている人間がいて、そのアクマも見たことが無いものだった。
俺が無いっていうのは経験がないからなんだけど、姉さん達も言ってるからやっぱりこの世界のとは違うらしい。
で、姉さんが言うには、あの人間は『悪魔召還師』ではないかとのことだ。見たことはないが聞いたことはあるそうだ。
そういえば、モコイと名乗るアクマが『デビルサマナー』とか言っていたなぁ……
人間の中にはアクマを使役する者がいるそうで、そういう類だろうと仲間達は結論を出したようだ。
盛り上がってる中、俺はぼんやりと彼の事を思い返していた。ライドウと名乗る学生のことを、目深に被った学帽から少しだけ見えた顔は美しかった。白くて、整い過ぎたそれは人形のようにも見えた。作られた戦闘用のアンドロイドです。って言われても納得しそうだけど、彼が人間だってことは俺が一番良く分かっている。
彼を殴った拳にはまだ体温が残っている。そんな錯覚がある。
アクマを殴っても、拳に痛みが走るだけで、胸が痛むだけで、熱を感じたことはなかった。自分の体にも温もりはない。なのに、彼からは温もりを感じた。殴りつけても声一つあげないのに、彼には熱がある。触れた瞬間にドクンと震えた鼓動すら感じてしまった。
生きている、生きている。
拳を握りしめ俺は蹲った。前にもこうしていたなぁ、あれは初めてアクマを倒した時だった。
こうなってから、初めて人間を殴った。いや、人間の頃からトータルしても初めてだ。誰かを全力で殴ったことなんてなかった。
今更って思う。アクマも人も代わりはない。殴ったことに震えてるんじゃない。拳から伝わってきた鼓動と熱に震えて居るんだ。
欲しくて、欲しくて、求めていたモノがあったのだ。
同時に、彼の存在は自分が人ならざるモノになったとも告げている。
ずりぃ
あんなに強くて、綺麗で、そんで生きてるなんて、人間なんだって……
俺が失った全てを、それ以上かもしれないけどを持っている彼が眩しく思えた。
「また、会えっかな……」
えー、怖いからやだよ。って姉さんは苦い顔をしている。また会うことになるだろうって黒猫は言っていた。メノラーが導くのならば、会うこともあるだろうって俺は確信している。
会いたいなぁ、会って話がしてみたい。彼はひと言も口を聞いてくれなかったけど、声が聞きたい、話が聞きたい、もっと知りたい。
それまで、生き抜いて見るのもいいなぁ、戦って、戦って、勝ち続けていくのもいい。いつか、再び彼に会える時まで……
よし、落ち着いてきた。なんか楽しくなってきたし、また何か現れるかもしれないけど、まずは勇を助けに行こう。随分遅くなってしまった。
「よし、行こうか、そろそろ」
そう声を掛ければ仲間達は口々に返事を返してくれる。
行こう、なにがあるんわかんないけど、勇を助けて、コズテンノウに会ってみよう。
世界がどうなっているのか、この世界にどんなモノがいるのか、それを知りたい。
俺は階段を登った。もう、メノラーは揺れない。
気持ちだけは「たのもー」って感じで本部の扉を開けたんだ。
【終】