世界が終わる夜に
ワーストコンタクト
わりと気楽な気分で本部へと向かおうとしていたんだ。トールさんも遊びにおいでって言ってたし、勇を助けるならまたなにかありそうだけど、その準備さえしていればいいかなって思ってたんだ。
結果的に、その準備に助けられるんだけどね。
本部へと続く階段の前に来ると、メノラーが揺れたんだ。ちょっ、ちょっ、どこ、どこから来るの? また骸骨なの、骸骨なの?
震えながら見渡しもなにか気配を感じない。階段付近のマネカタに話しかけたら、学生が自分を探しているとか、銃刀法違反だとか言っている。なに、それ。
学生って勇のことなのかな、でも勇なら掴まってるし、どういうことだろう。
解放されたんだろうかと急いで登ったんだ階段を、それは階段の上に居たんだ。
なにか視線を感じたんだ。何かが俺を見つめている。視線の方を向けば、そこには何か変なモノがいた。
形状からしてアクマだろう。でも、初めて見るアクマだった。いや、まあほとんどのアクマが初めて見るモノになるんだけどね。
柱の影からひょっこりと顔半分だけでこちらを見つめている。鈍い鉛のような銀色の瞳がじっーと見つめている。特に敵意も無いようなのが不思議だ。緑の物体は見つめていることに飽きたのか、ひょろりと滑るように横へと踊り出た。
全身が現れたことで俺はびくっと震えた。とにかく、行動が意外なんだ。読めない。むしろ、こいつには意図がある。ただ襲ってくるだけのアクマじゃない。なにか、意図があって俺を見ている。
滑るようにひょろーりと現れた切り株のような緑のソレが急に頭を下げた。
お辞儀?
釣られて頭を下げてしまう。
頭を下げると年輪のようなモノが見える。バウムクーヘンとか、まんがの肉を思い出す。ああサボテンダーにも似てるかも……
それがぶるると体を震わせて何かを話し始めた。
なんだか不思議な面白い口調している。彼の名はモコイというそうだ。ボルテックス界初デビューっすとか言ってる。ボルテックスってここのことだよな、デビューってことはここの子じゃないっことなのか、他に世界があるのか?
とてもコミカルに話してるけど、言ってることかなり凄いぞ。えっえっ……
褌を着けたサボテンダーはブーメランを片手にくねくねと体を揺らしている。ふと、動きを止めた体がまるで手を翳すようにブーメランを構えている。えっ、戦意は感じないが戦うのだろうかと思えば、モコイは明後日の方向を向いている。
まったく自分を見ないモコイを怪訝に思い見遣る方を向けば、階段の下に人がいた。
そう、人間だ。学生服を着た男が下に立っている。確かに、学生だ。少し、いや大分レトロな感じがするが、コスプレなんだろうか、学生服の上にマントを羽織っている。なんか古い大学の卒業式みたいだ。
黒衣の学生って学生服って黒なんだけどさ、黒尽くめなんだ学帽も被ってるし、その脇にはやっぱり真っ黒な猫が居る。寄り添うようにいる一匹に仲いいのかなって思ったら、話しかけられた。
このときは久しぶりにみたナマの猫っていうか、動物ってことに驚いて、いや学生さんにも驚いたんだけどさ、猫がしゃべるってことにツッコミ入れ忘れたんだ。今でも後悔してるね。まずはそこだろうって、でもアクマ見ていると話すのが当たり前な感じしてたんだよね。こんなこと言うと、その頃パーティーにいたバイコーンに、馬じゃないって怒られたんだけど、馬だろ。
いきなり、にゃんこにその力試させて貰うぞって言われた。えっ、ちょっどういうことなの?
学生はマントをはためかして、カツカツと階段を登ってこっちにくる、なんか刀手を掛けている。っていうか、なんでマントの下に刀持ってるの、なんか銃も持ってないか? 銃刀法違反って両方かよっ、俺、素手なんだぜ、ずりぃ
人間と、しかもなんの因縁もない彼と戦う理由なんかなくてどうしようと思っていたけど、あっちは向かってくる。なんとかしないと、凄い慌ててた。でも、一番驚いたのは彼が飛んだんだ。
ひょんと軽く飛び上がったんだ。上か俺は彼を見上げた。目深に被った学帽で見えなかった顔が見えた。
白かった。なんか、高そうな人形みたいに白かった。その白の上に置かれた顔はイケメンなんて言葉で片付けられないほど整っていた。整いすぎていて、思わず見とれてしまった。こんなに綺麗な人を見たことがない、ぼんやりと見上げる俺を仲間達が注意する。
咄嗟に構えた俺たちに彼が斬りかかった。一撃を受けて俺の頭は一気に冴えた。やばい、強い、強ぇぇ
初め刀と銃で戦うのかと思ったら、それも使うけどアクマ達も出してきた。俺たちみたいにずっとパーティーにいるわけじゃなくて、一回、一回、現れる。緑色の変なオーラーみたいな奴を纏って現れるんだ。キラキラ光って綺麗なんだけど、どいつも凶悪だった。もちろん、見たことない奴ばかりだけど……
鎧姿の若武者は、彼が斬りかかると背後から現れてこちらに斬りつける。ただでさえ人間の攻撃を受けてひるんだ後だからこちらは防御が出来なくてキレイに頂いてしまう。二回も食らえばあっという間に瀕死状態だ。
もう一人は女の子だった。鳥のようにも見える。羽の代わりに長い髪をパタパタと羽ばたかせて飛んでいる美少女だ。彼女は人間に掛けた補助魔法の効果を全て消していく。ああ、俺たちのラクンダ戦法が……
最後に出てきたのは、コミカルなモコイだった。でもそれは外見だけで、恐ろしいブーメラン使いだった。仲間達はバタバタとブーメランと混乱により消えていく。怖い、怖い。魔人と戦った時よりも怖かった。
なにより一番怖かったのは、人間だ。なんで、こんなに強いのか分からない。殴ってもひるまないし、怖い。むしろ、そんなに痛くないんだけど銃で撃たれると怯んでしまう。本能が怖いって感じるみたいだ。後で聞いたらみんなも怖いって言ってた。だって撃たれたことないもんって姉さん言ってたけど本当だよな…………
それでもなんとかみんなで頑張ったんだ。だいぶ堪えたはずだぞって思ったときに、不敵に笑われたんだ。なにくそーって思ったんだけど、その学帽の上で黒猫がフーって威嚇するから思わず和んでしまった。はっ、これはそういう戦略なのかな、さらに激しくなる攻撃を凌ぎながら俺達は耐えたんだ。
黒猫からライドウと呼ばれる学生が漸く膝を着いた。勝ったのかと思ったが、猫曰く力を抜きすぎだとか言っている。 まだ余力あんのかよって思うと、彼は膝に付いた砂を払いながら立ち上がった。
無理、もう無理。全面降伏したい。
だけど、彼等の目的は果たしたのかもう学生からは戦意を感じない。
改めて黒猫が彼の名前を教えてくれた。彼の名前はライドウ、黒猫の名はゴウト、なんと探偵らしい。
ちょっ、この世界に探偵って……
老人の依頼によって調査に来たとか言っている。老人ってさ、アレだよね。だぶん。つうか……メノラー反応してたし……なんなんだよ。
また会うかもと猫に言われライドウは何も話さずに帰って行った。
ちょっと待ってよ、俺の話も聞いてよ。つうかさ、なんで生きてるの? なんでここに居るのかもう少し教えてくれよ。