有言実行
「解放戦争のときの軍師マッシュ・シルバーバーグって、どんな人だったんですか?」
丸い茶色の瞳で、ある日彼はこう切り出した。
有言実行
事務的な作業でくたくたになった城主スウォンは、それでも最後の力を振り絞り、いつものように彼を探す。
彼―ウィル・マクドールを探す。
「ルック、もうウィルさん帰っちゃった?」「さあ」
「でもテレポートはしてないんでしょ?」「知らない」
「いつもまるで釘でも打たれてんじゃないかって位ここにいるのに知らないわけないじゃない」
「君が執務室にいるのと同程度くらいにはね」
どうも彼の機嫌を損ねたことを察し、早々と退散。
まずウィルの事をルックに聞いたのが間違いだったと反省。
ちらりと覗いた限りでは酒場にいる気配はなく、とりあえずスウォンは道場などのある訓練棟へと向かった。兵士達の訓練を横目に見ながら、廊下を進む。
青い騎士服をまとうマイクロトフが角を曲がってきたので、先ほどと同じ事を聞く。
「マイクロトフ、ウィルさんを見なかった?」
「いえ…俺にはちょっとわからないです」
「そう…」
生真面目なこの騎士が嘘をつくことは考えられない、こちらには今日は顔を見せていないのだろう。
そこまで思ってスウォンはがっくりと五秒肩を落とし、また走り出す。
どうもこの棟にはいないようだと見当をつけ、外へと出る扉に向かった。
今日は珍しく日の落ちないうちに仕事を終えられたのだが、外の様子を見る暇もなかったので、スウォンははじめて今日が快晴であることを知った。心地よい風が前髪をすくう。
角を持つ白馬が池の水を飲むのを見て、城主は空腹を感じていた。
「ウィルさん見つけたらご飯を食べよう…」
見回すとニナと目が合う。彼女は両手いっぱいの本を抱えていた。
この戦いが終わったら彼女はあの学園に戻るのだろうかと、ふと思う。
皆自分の元に集った理由は様々だが、この戦いでこの地に平和を求めている。この戦いが終わると、彼らは皆どうするのだろう。
自分はどうするのだろう。
先の見通しが立たぬ自分の状況を省みるのも束の間、それを中断させるは若い乙女の声。
「スウォンさーん!フリックさん見なかった?」
ふっと我に返ると、目の前にニナが立っている。びっくりして声が出ないスウォンに気づいているのかいないのか、ずずいっと顔を近づけてきた。
「大丈夫?疲れてるのかしら」
「あ、いや…」
「珍しいわね、あなたがぼうっとしてるなんて。今日もあの人を探してるんでしょ?」
「そりゃ僕もぼうっとすることくらいあるよ」
「あら、恋しい人の前ではてんでダメなくせに」
「押せ押せでいったって無理だと思うけど…」
まったく聞こえない様子でニナがもう一度フリックの所在について聞いた。
「知らない」スウォンは首を振る。
「えー…せっかく今度は学生らしく勉強してる私を見て惚れ直してもらおうと思ったのに…」「結局そっちすか…」
あきれて声も出ないスウォンに「それじゃあ」といってニナはとことこ駆けていく。ついでに躓いてフリックの顔にその大量の本をぶちまけてやれとスウォンは思った。
あの美青年は、自分よりもウィルに頼りにされている。
「3年前に出会ってたら、僕はあの人の助けになれたと思います…?」
誰への言葉かもわからず、ただ口から漏れた。
「あ、スウォンさーん!」
思い出したようにニナが大声でスウォンに言った。
「彼、図書館で本探してたわよ!」
やっぱりインテリジェンスなところをアピールして、フリックを骨抜きにしてやれと思った。
丸い茶色の瞳で、ある日彼はこう切り出した。
有言実行
事務的な作業でくたくたになった城主スウォンは、それでも最後の力を振り絞り、いつものように彼を探す。
彼―ウィル・マクドールを探す。
「ルック、もうウィルさん帰っちゃった?」「さあ」
「でもテレポートはしてないんでしょ?」「知らない」
「いつもまるで釘でも打たれてんじゃないかって位ここにいるのに知らないわけないじゃない」
「君が執務室にいるのと同程度くらいにはね」
どうも彼の機嫌を損ねたことを察し、早々と退散。
まずウィルの事をルックに聞いたのが間違いだったと反省。
ちらりと覗いた限りでは酒場にいる気配はなく、とりあえずスウォンは道場などのある訓練棟へと向かった。兵士達の訓練を横目に見ながら、廊下を進む。
青い騎士服をまとうマイクロトフが角を曲がってきたので、先ほどと同じ事を聞く。
「マイクロトフ、ウィルさんを見なかった?」
「いえ…俺にはちょっとわからないです」
「そう…」
生真面目なこの騎士が嘘をつくことは考えられない、こちらには今日は顔を見せていないのだろう。
そこまで思ってスウォンはがっくりと五秒肩を落とし、また走り出す。
どうもこの棟にはいないようだと見当をつけ、外へと出る扉に向かった。
今日は珍しく日の落ちないうちに仕事を終えられたのだが、外の様子を見る暇もなかったので、スウォンははじめて今日が快晴であることを知った。心地よい風が前髪をすくう。
角を持つ白馬が池の水を飲むのを見て、城主は空腹を感じていた。
「ウィルさん見つけたらご飯を食べよう…」
見回すとニナと目が合う。彼女は両手いっぱいの本を抱えていた。
この戦いが終わったら彼女はあの学園に戻るのだろうかと、ふと思う。
皆自分の元に集った理由は様々だが、この戦いでこの地に平和を求めている。この戦いが終わると、彼らは皆どうするのだろう。
自分はどうするのだろう。
先の見通しが立たぬ自分の状況を省みるのも束の間、それを中断させるは若い乙女の声。
「スウォンさーん!フリックさん見なかった?」
ふっと我に返ると、目の前にニナが立っている。びっくりして声が出ないスウォンに気づいているのかいないのか、ずずいっと顔を近づけてきた。
「大丈夫?疲れてるのかしら」
「あ、いや…」
「珍しいわね、あなたがぼうっとしてるなんて。今日もあの人を探してるんでしょ?」
「そりゃ僕もぼうっとすることくらいあるよ」
「あら、恋しい人の前ではてんでダメなくせに」
「押せ押せでいったって無理だと思うけど…」
まったく聞こえない様子でニナがもう一度フリックの所在について聞いた。
「知らない」スウォンは首を振る。
「えー…せっかく今度は学生らしく勉強してる私を見て惚れ直してもらおうと思ったのに…」「結局そっちすか…」
あきれて声も出ないスウォンに「それじゃあ」といってニナはとことこ駆けていく。ついでに躓いてフリックの顔にその大量の本をぶちまけてやれとスウォンは思った。
あの美青年は、自分よりもウィルに頼りにされている。
「3年前に出会ってたら、僕はあの人の助けになれたと思います…?」
誰への言葉かもわからず、ただ口から漏れた。
「あ、スウォンさーん!」
思い出したようにニナが大声でスウォンに言った。
「彼、図書館で本探してたわよ!」
やっぱりインテリジェンスなところをアピールして、フリックを骨抜きにしてやれと思った。