有言実行
静かなところでは特に、周囲の人間に彼が不思議な雰囲気を持っている人間だと感じさせるようだ。
スウォンはやっと探し人を見つけたにもかかわらず、その人のページをめくる指にしばし見とれて、彼のまっすぐな視線が文字を追うのを見つめていた。
綺麗な人だと思う。確かに、そう思う。けれど人をひきつけるのはきっと彼という存在そのものなのだと、いつだって認識させられる。それは彼にとって、喜びだけではないのかもしれないけど。
(こっち向けー…)念じてみる。
(好きですよー…)気持ちを送ってみる。
(たまには探してくださいよ…)愚痴ってみる。
しかし、ウィルはこちらを向かない。
(馬鹿ー…アホー……抱きしめちゃうぞー…)
いい加減じれったくなって、そっと彼に近づく。やっぱりこちらを向く様子はない。
あと、数歩。
背後から抱きつく予定5秒前に、ウィルが急にこちらを振り向いて、くすくすと笑った。
「…そういうことは10年早いよ」
ああ、やっぱりこの人が好きだと、スウォンは確信した。
「知ってたんですか?」
「うん。何するのかなと思ったら案の定だったから。こっちが驚かしてやろうと思って」
相変わらずいい性格してるなあと心の中でつぶやいて、スウォンはふてくされた顔でウィルを見る。するといつものようにさらりと。
「だって僕はいつも君に驚かされるばかりだから、たまにはいいだろ。ささやかな仕返しなんだよ」
可愛い事を言うんだ。確信犯なのか、天然なのか悪魔なのか、ふわりと笑って。
「僕はあなたにめろめろなんですから、何されたってよちよちあなたを探しますからね」
「じゃあ今度ルックでもけしかけてみるね、面白そうだから」
「では今ネタ作りにちゅーのひとつでも仕掛けてみましょうか」
「…できないよ」
「できますよ!」
「図書館では静粛にお願いしますね…?」
青筋を立てたエミリアに、二人そろってぺっと放り出された。
「ウィルさん、その本の返却期限は2週間後ですので、お忘れなく。」こういうときだけ、事務的な笑顔をまとう大人の女性エミリア。
「はい、わかりました」ことさらにっこりと外面笑顔で返す客人。
「…………」唖然とする城主。
パタンと閉められる図書館のドアに、1週間は出入り禁止だなとスウォンは思った。
ウィルはと思い振り返ると、さっきよりも盛大に笑っている。
「あははー!…あーほんと君って面白いね」
「…知ってたなら言ってくれればよかったのに…」
「だから、“できない”って言ったじゃない」
「今に舌抜かれますよ」
「抜かれてほしいの?」
「あなたの舌を抜くような輩は僕がはっ倒します」
「どっちなのさ」
そして足を伸ばして、くすくす笑いながらウィルは伸びをした。
日差しが暖かくて、昼寝にもってこいの日だと思った。
「レストランでご飯でもどうですか?」
「いいね、そうしようか」