古キョン1
泣くなよ、と呟いた彼の声は、困ったようで、それでも自分をとても気遣ってくれていた。残酷なまでに優しい、声。そんな声をかけておいて、泣くな、だなんて無茶を言わないで下さい。そもそも今の状況で平常心でいられるほどの軽い気持ちではないんです。万感の思いを込めて首を横に振ると、彼はますます戸惑ったようだった。ああごめんなさい。困らせたいわけじゃないんです。僕のせいであなたが困るだなんて、そんなことあっていいはずがない。僕だけのために困ってくれるだなんて、そんな贅沢は許されない。そもそも彼は彼女にとって、つまりは世界にとって大切な人で、僕がこんな風に彼を独占するだなんて、そんなこと。ああごめんなさい。許して下さい。それでも涙が止まらないんです。感情を抑えるのは得意だったはずなのに、あなたの側にいるとそれすらも適わない。ごめんなさいごめんなさいごめんなさい。あなたが好きです。