古キョン1
その男は作り物のようにきれいな目で、いつも浮かべているしまりのない笑顔をどこかに追いやった真剣な表情で、耳に心地好く響く甘い声で、僕はあなたが好きです、と言った。好き。その言葉が示す範囲は広い。しかしそんなレトリックは必要なかった。こいつが言う「好き」の意味はただひとつだ。その目が表情が声が、彼の全てが言葉以上に雄弁に心の内を物語っていた。だからこちらも姿勢を正し、真摯に真剣に返事を返した。俺もお前が好き、なんだと思う。するとそれまで酷く緊張した様子だったそいつの表情が弛緩し、ぽかんと呆けたように口を開けた。やめろよその顔。せっかくの美形が台無しだぞ。それとも曖昧な返事が気に食わなかったのだろうか。しかし今現在自分が出せる答えを正直に口にしたまでだ。嘘を言うよりはマシだと思ったから。言葉を募ろうと口を開いたのと同時に、目の前にある人形のような目からぽろりと小さな水の粒が転がり落ちた。白い頬に透明の道ができる。と、見る間に両目から涙が溢れ出して、慌ててしまった。泣くなよ、と言ったのに、その涙は止まる気配を見せない。男は強く首を左右に振って、ごめんなさい、と小さく呟いた。その声はいつもよりずっと切なくて、でもやっぱり甘かった。