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tiny dream

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真夜中、ドイツはふと眼を覚ました。理由はわからない。意識は覚醒したけれど目は閉じたままで、周囲の気配を探る。軍人として身に付いた無意識の行動だ。こういうことは何度かある。大抵、窓を閉め忘れたせいでカーテンが揺れたり、外で鳥が力強く羽ばたいた音が聞こえたり、と何でもないことが多い。今日もその類だろう、と再びまどろみかけたその時、背後で布が擦れる音がした。カーテンやシーツではない、明らかな衣擦れの音。意識が一気に危険信号を発し、枕の下の銃を引っ掴んでドイツは跳ね起きた。

「誰だ……!」
「お? 起きたのか」

しかし掛けられた声はやけにのんびりと暢気で、敵意など感じられない。油断をしないよう気を引き締めながら、ドイツは声の出所を探った。暗い部屋の中で何か白いものが揺れて、ゆっくりとこちらに近づいてくる。それは白い服だった。

「久しぶりだな、ゲルマンの息子。ドイツ、と言ったか?」
「……お前は、」

深く穏やかな声に、気安い口調。薄闇が目になじんで見えてきたのは人懐っこい笑顔だ。そのくせ身のこなしに隙はない。ラテンの伊達男、といった風情のこの男を、ドイツは知っている。以前にも同じように夜中に忍び込んできたこの男は、信じられないことに今ドイツの隣で爆睡しているイタリアの祖父、ローマ帝国なのだ。最初に見た時には到底信じられなかったけれど、孫であるイタリアがそう言っていたのだから真実なのだろう。知った顔にドイツは緊張を解いたが、代わりにいぶかしむ表情でローマ帝国を見上げた。

「何の用だ。また孫を見に来たか」
「いいや、今日はお前に会いに来た」
「……は?」

聞き間違いか、と思ったけれど、ローマ帝国はドイツをじっと見つめている。前回来た時には真っ先に眠っているイタリアに駆け寄り、思いきり頬ずりなどしていた。けれど今日はイタリアには一瞥をくれただけで、手を伸ばしもしない。不可解に思って真意を問いただそうとすると、こちらの意図を察したようにスイッと人差し指がドイツの目の前にかざされた。

「お前、俺の孫のこと好きなんだろう」
「…………はぁ!?」

何をいきなり? いや、どうしてそれを――。突然のローマ帝国の言葉に混乱したドイツは、ただ茫然と彼を見上げた。対するローマ帝国は冷静に、ドイツをじっと見下ろしていた。穏やかな瞳の色は、彼の孫とよく似ている。
ローマ帝国の言う通り、ドイツは昔からイタリアに想いを寄せていた。最初は、戦時下における欲求不満の表れだと思った。だって自分たちは男同士で、相手は生粋の女好きイタリア男なのだ。ただの思い過ごしか、そうでなければ一時の気の迷い。そう考えるのが妥当だし、事実ドイツはそうやって自分に言い聞かせた。けれど戦争が終わっても想いは消えるどころかどんどん膨らんで、気づけば始終イタリアのことばかり考えるようになっていた。頼りないけれどどこか目が離せない笑顔も、軽快で間延びした話し方も、穏やかで優しい光を浮かべた瞳も、仕草のひとつひとつや声に至るまで全てがどうしようもなく好きになっていた。
愕然とした。そして、絶望した。だって自分はどうあっても男だ。イタリアが好む女性特有の柔らかい身体も、可愛らしい美しさも持ち合わせていない。それどころか、ドイツはイタリアより背も高いし体つきもたくましい。そんな男に、どうしてイタリアが恋愛感情など抱くはずがあろうか。捨てられなかった想いは、最初から叶うはずもないのだ。イタリアはドイツに好意を示してくれるけれど、あくまで友情の域を出ない。今夜のようにこうして同じベッドで一緒に寝るのも、友人とのスキンシップのひとつ。優しく生温い関係は、何よりドイツの心を引き裂いた。

「図星、って顔だな」

ローマ帝国は苦笑し、やれやれと溜息をついた。何故、見抜かれたのだろう。誰にもこの想いは告げたことがなかったし、うまく隠しおおせてきたと思っていた。なのに、ほぼ初対面の相手に指摘されてしまうなんて。心臓が冷えて、ドイツは言葉もなくローマ帝国を見返した。

「……あー、心配すんな。俺が気づいたのはな、理由があるんだ」

こちらの心情を見透かしたらしく、ローマ帝国はひらひらと手を振った。そんなにわかりやすく表情に出ていただろうか。

「あのな、俺はゲルマンが……お前の親父がな、好きなんだよ」

お前らが生まれるよりずっとずっと昔からな。かつて栄華を極め、「全ての道はローマに通ず」とまで言われた大帝国は、どこか寂しそうにぽつりと呟いた。ドイツにとってローマ帝国は伝説の国で、永遠の憧れで。そんな男が今ドイツに向かって、訥々と知られざる想いを語る。

「あいつは俺にとって親友で、いいライバルだ。特別なんだ。だからゲルマンの息子だっていうお前を前から見てた。そしたらどうにも俺の孫が気に入ってるみたいじゃねぇか」
「それは……」
「皮肉なもんだよなぁ。俺はお前の親父を、お前は俺の孫を気に入ってるだなんて。もしも……」

言いかけて、ローマ帝国は言葉を切った。けれど言葉の続きは容易に想像がついた。もしも、相手が逆だったら。もしも相手が自分だったら。お互い、幸せになれたのではないだろうか、と。もしもの話。つまり現実ではない。当然だ。自分たちが愛したのは、お互いたった1人だけなのだから。
軽く首を振って、ローマ帝国は肩をすくめた。今更そんなことを言ったって仕方ない。好きになってしまった。愛してしまった。長年諦められなかったのだから、仕方ない。

「――悪いな、年寄りの戯言だ。忘れてくれ」
「……」

最初から全てを諦めた口調に、ドイツは心臓が締め付けられるのを感じた。ローマ帝国は偉大な国だった。けれど本人と話をしてみれば自分と同じような悩みを抱えていた。不思議な感覚だ。結局いつの時代も人というものは変わらないものなのか。じっと見上げていると、ローマ帝国が苦々しい表情で視線を泳がせた。

「……あー、悪い。そんなに見つめんでくれ。お前はゲルマンによく似てる。勘違いしそうだ」
「え……あ、その……すまない」

ドイツは慌てて視線を伏せた。途端に心臓がばくばくと激しく鼓動を打ち始める。そうだ、目の前の男はイタリアの祖父なのだ。ローマ帝国はドイツがゲルマンに似ていると言ったけれど、彼もイタリアによく似ている。ラテン男の整った風貌に、軽快な話口調や、柔らかく響く声、優しく寛大な瞳、くるんとカールした癖毛まで。意識してしまうともう、ローマ帝国の面差しにイタリアが重なってしまって、まともに顔など見られない。かぁっと顔が熱くなった。
その時、日に焼けたたくましい腕が伸びてきて、指がそっとドイツの頬に触れた。自然な動きで顎を持ち上げられ、再び視線が合う。底の見えない瞳に強い情熱の光がちらついた、と思った時には既に唇を塞がれていた。熱く柔らかな唇がしっとりとドイツのそれを押し包み、軽く食んでから、ちゅっと軽い音を立てて離れた。児戯に等しいキスだったけれど、頭の芯がジンと痺れた。

「……これは、夢だ。都合のいい夢。起きたら忘れて、また恋の苦しみに耐える日々を送る。いいな?」
作品名:tiny dream 作家名:とおる