いつものこと、なのだけど、
納得、いかないことがある。
どうしても。
「っていうかさ、そもそも思い切りが足りないんだよ。ホントにやる気があるのかいあれは、」
「というよりもあれだろう。そもそも油断をしすぎなんだどうしてこんなに侮られているんだ」
「「(非常)(ホント)に(遺憾だ)(腹が立つよ!)」」
「……」
「……」
「…………」
「…………」
「「…はあ、」」
「あ、もういっこどうだい?」
「ん?ああ、頂こう」
どうぞ。
ダンケ。
そんな、やりとり。
二人して、並んで座って公園のベンチ、なんとなく上を見てなんとなく下を見て、
はぁ、っとお互いまた、ため息をついた。
「ねーえ、キミ、プロイセンのこと好きかい?」
「……そっくりそのままお前に返そう。お前はどうなんだ。イギリスが好きなのか?」
二人とも、『嫌いじゃないのか?』とは訊けない。
そんなの、たとえただの言葉でも口にしたくない。
兄が好きだった。
それだけなのに、なんで上手くいかないんだろう。
アメリカとドイツは、考えた。
?アメリカの場合。
世界会議があったのだ。
ドイツの好きな、アメリカの嫌いでない、国で。
ドイツは3日前から現地入りし会議の下準備はもちろんそれ以外の外交にも余念がなかった。
アメリカは前日に現地入りし、慌しく記者会見したり外交したり、会議が終わった後ドイツよりも4日長くそこに滞在し、あれこれ、仕事をする予定らしい。
会議があったのだ。
『世界』の。
議題はもうずっと、ここ20年は繰り返されてきたような経済の発展や地球資源の問題で、自国のエコに隙のないドイツは他国と己のそれを測り比べるように聞き入って詳細にメモを取り、時に発言して質問しては充実した『話し合い』を行っていた。
自身がホストでなくなると途端やる気のなくなると言われているアメリカも、それでも一応ひとの話を聞いて、己が確認すべきことに関しては発言し質問し、報告書のためにメモを取り、(ああそれでもやはり、どうにも自分が中心でないとイマイチ調子が出ない…と)ほんの少し気もそぞろ、『話し合い』に参加していた。
けれど彼らは国の化身である。彼らそのものがその問題の解決について本格的に話し合うわけではない。
それは別室でそれぞれの国の専門家や上司たちが行っており、彼らが会議だと一堂に会して『話し合う』のはまあ言ってみればそのオマケの、情報交換や上司同士の公式には言えないあれこれの言い合いだったりした。
上司同士がケンカをすれば国際問題だが、自分たちが『その問題』についてどのように言い合おうと直接国際情勢に反映されるわけでない。
彼らは、けれど彼らが知っておくべきもの言っておくべきことをお互いに言い合うために、集まっていた。
(まあ、けれどどうにも彼らは『そのような』存在であるものだから、実際の友好や距離が席の遠近や話の輪、の範囲などに反映されてしまっていたのだけれども)
アメリカとドイツは、隣同士だった。
欧州の、列の端にドイツが座ったからだった。EUの端だ。(フランスは、その向こう、スペインとイギリスに挟まれていつものようにおやおやと笑っていた)
「…や、」
「…ああ、」
久しぶりだった。
まあ、わざわざ隣に座ろうね、そうだね、というような間でもない。
久しぶりだね、元気でやってるかい?ああ、お前もな、などとぽつりぽつり、お互い資料に目を通しつつも話しかけられたり返事をしたり、するだけだった。
「…気分でも悪いのか?」
「ん?」
会議の半ば、ドイツがどこかの国だれかのする話の方を見て、けれどふと、そう言った。
アメリカはその彼の話を半ばどうでもいいと思っているようだった。先ほどまで最低限は集中していた気配があったのに、その彼が、発言に立ちあがった瞬間にふっとそれが切れてぼうっとしはじめたように感じられたのだ。
ドイツは目の前の発言に注意を向けながら、けれど隣にぽそりと問いかけた。
心なしか、いつもより元気がないようにも思える。
(いつだって俺がヒーローだと言って憚らない何でも俺が俺がという彼には珍しいことだった。彼は、その気質で『ハハハハハ、そんなもの興味ないんだぞ!』と非常に我が道を行くことを言い飛ばしたり、『そんなことより聞いてくれよみんな!俺がもっとすごいことを考えたんだぞ!』と好き勝手な話題を始めてしまったりするものなのだ。)(例えそれがフリであっても、自覚の上で滑稽を演じているものだったとしても)
「元気がない」
ドイツが言えば、隣の気配は黙って、それから少し困ったように笑って、まあね、と言った。
「…またあとで」
「…ああ、」
どうやら、『そういうこと』らしい。
ドイツは小さく返事して、そっとズボンのポケットを探った。
(ホテルの兄に、メールしたのだ。少し、遅くなる、と、)
(返事はすぐにきた。遅くなるなよ、と一言。ん、わかった、とタイトルで。)
目の前の彼の話が白熱してきて、他の国が落ちつけと言ったり野次を飛ばしたり、いや待て俺の話も聞けなど討論に、発展していた。
窓の外はあおいあおい、欧州の春の空。
雲が流れていて、ああ、メレンゲに似ているな、とどちらかが思っていた。
「で?」
「ん…?」
「なんだ、どうしたまたいつものか?」
「むっ、なんだいその俺がその『いつも』をいつまでも解決できてないみたいな言い方!失礼なんだぞ!」
「では訊くが、違うのか?」
ドイツが言うと、アメリカはうっ…と言葉を詰まらせた。
違うのか?ドイツが重ねると、アメリカはうぅー…!と唸って、おい、アメリカ、とドイツが言うと、もーーーーっ!と彼は地団太を踏んでそうだけどさあ!だからそうだけどさあ!!と悔しそうにジタバタした。
ほらみろ、そうなんじゃないかと呆れたように、少し得意そうにドイツ。
まったく…、と、ため息をついてベンチに腰掛けた。
ふん!っとアメリカ。その横にどすんと腰をおろして、キミだって似たようなのわずらってるくせに、と膨れて言った。ドイツは苦笑して、まあな、と持っていた袋を開けた。
ちいさな、ころりとドーナツ。
隣のアメリカも同じように自分の荷物の紙袋をガサゴソとして、その中身をひとつ頬ばった。
まぁるい、穴のあいたドーナツ。
白いチョコがぬられていて、緑の細い線と黒やオレンジピンクに青のスプレーがぱらぱらとかかっていて、それはどこか今日の彼に似ているような気がした(おとなしめだ…)(ドイツは何となくそんなようなことを思った)(べつに、どうでもいいことだったが、)
「…で?」
「むぅ、なんだい」
「今日はどうしたんだ」
「べつに」
「いや、別に、って、」
そういう顔じゃあないだろうお前、というようなぶすーっとした顔と声でアメリカが言った。べつにっ、なーんにもっ?(ないよ!)(ないからこんななんじゃないか!!)(聞こえてきそうな、声と顔で)
ドイツは笑った。そうか。
「相変わらずなんだな」
「まあね!」
キミこそどうなのさ!
みんな気付いてないみたいだけど、目元!ちょっと赤いよ!!
「!」
作品名:いつものこと、なのだけど、 作家名:榊@スパークG51b