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可愛い女になりたかった

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「可愛い女になりたかった」

出来ればすぐに泣くような、ぐずでまぬけな女がよかった。

 白雪姫の話を初めて知ったのは、それなりに年を重ねてからだった。自分にはそういう、いわゆるお姫様のお話は必要が無いと思われていたのだろう。待っているだけのお姫様になど、なることも夢見ることも許されてはいなかった。それだけではなく、実際聞いてもお姫様とは気が合わなかったのだから、教育方針はもしかしたら間違っていなかったのかもしれない。初めて見た死体にキスするような変態にのこのこついていくって、アンタ馬鹿じゃないのとしか思えなかったし、それでなくても、顔だけで世の中を渡っていくような女は大嫌いなのだ。
 そんなわけで、初めての白雪姫の感想は「馬鹿な女がいたもんだ」だった。ちなみに、馬鹿なのはお姫様ではなくてお妃の方だ。
 スノーホワイトは、気は確実に合わないけれど、ちゃっかり男を利用しているところなんか賢いと思った。復讐をしっかり忘れないところなんてかなりの高ポイントだ。遠いところで幸せになって欲しいタイプだと思う。そんなことも見抜けなかった、お妃は馬鹿だ。あんたの娘は賢かった。そして、あんたの娘は、可愛かったのだ。大体、美しさなんて千差万別なのだから、鏡の主観をスタンダードにするのがまず間違っている。鏡が熟女好きだったら、確実にお妃の方に軍配が上がっていただろう。まぁ、残念ながらそうはならなかったのだけど。でも、思うにあの時点では、美しさだけでいうのなら、お妃の方が上だったのではないかしら。白雪姫、あのお姫様はちょうど女の子から女になる途中で、美しいって言うよりは、可愛らしさが勝っていたのではないかと思う。そして世の中には、美しいよりもかわいい方がうまく働く。美しさが千差万別で、時と場合により恐れられるものにすらなるのに対して、かわいいは普遍的で、絶対だ。人の「可愛い」に触れたら、絶対に受け入れられる。白雪姫は、そこら辺をしっかり分かって活用した。そんなことも分からなかったお妃は馬鹿だ。毒りんごを作るスキルがあるなら、別方面で生かせばよかったじゃない。それこそ、夫の浮気に悩む妻に売りつけるとかしたら、結構なビジネスになったんじゃないの?王様なんていらないくらいにさ。
 そこまで話したら、あの男はこらえ切れないといった風情で吹きだし、そのまま体ごと曲げて笑い始めた。「確かにな」と言ったその笑顔が、ちょっと可愛らしくも思えて私は、お妃のことを笑えないと思った。

 馬鹿な女が、いたもんだ。

 軽やかに動いていた足が止まったのは、川に背を向けて立つ人影に見覚えがあったからだ。鉄骨が黒く染める地面の上ではうまく見えないけれど、そのすべらかな頬と、冷たい視線を知っていた。ひなたは思わず止まってしまった足に力を込める。ここで逃げたら女が廃るというものだ。てゆうか逃げる理由が無いし!果敢にひなたが踏み込んだ音は、意外に大きく響いたようだ。香子が振り返る。それを見て、ひなたはいつかした教室での会話を思い出した。誰かを待っていた目は、美しい顔に青く映えていた。
作品名:可愛い女になりたかった 作家名:フミ