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Dear Monster

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恐怖すら知らない生き物は、最早ただの怪物だよ。そんな怪物が人間を愛していいはずがないし、愛してくれる人間だっているはずないよね? 怪物は人間に忌み嫌われ疎まれるのが世の常なんだから。だから君は絶対に人間からは愛されない。ただひたすらに憎まれるだけ。

「でもね、安心してよ。この世で一番君を憎んでるのは、この俺だからさ」

一見優しげな笑顔で微笑み、臨也は静雄の頬を撫でた。ナイフはまだ突き付けたままだ。罵倒より辛辣な言葉を浴びせられた静雄は、ただただ目を見開いて臨也のなすがままになっている。自分は恐怖すらまともに知らない欠陥だらけの怪物で、人を愛する資格も愛される資格もない、憎まれるだけの存在。そう、昔から他人が自分に向ける視線はいつも恐怖と敬遠だった。恐怖を持つ人間から、持たざる自分に与えられるのは憎しみだけ。そしてこの男は、自身が一番静雄を憎んでいる、と言った。

「俺が憎いでしょ? 気づかずに済んだかもしれない真実を掘り出されて、憎いと思ったでしょ?」

毒のように甘く臨也が囁く。もちろん静雄は昔から、それこそ同じ高校に通っていた頃から臨也が嫌いだ。殺してやりたいと、実際殺してやろうと何度思ったかわからない。そんな相手に残酷な真実を暴かれてしまった。悔しい。腹立たしい。憎らしい。ああ、憎い。静雄はこの男が憎い。

「殺す……」
「あは、いいねその目。いかにも怪物らしい。ほら、これで晴れて俺たち相思相愛だよ。ね、だからシズちゃんは俺を選べばいい。俺だけ見て、俺のことだけ考えればいい。簡単でしょ?」

臨也が憎い。臨也が憎い。臨也が。臨也が、臨也が臨也が臨也が臨也臨也臨也臨也臨――
ぐらぐらと思考が揺れる。頭の中を駆け巡るのは臨也のことばかり。濃密な感情が膨れ上がり、出口を求めて暴走している。睨みつける静雄の視線を真っ向から受け止め、臨也の口の端がにんまりとつり上がった。

「これで――おれのものだ」

臨也が呟いた言葉は静雄の耳には届かなかった。笑みの形に裂けた唇が近づいてきて、ありったけの憎しみを込めたように静雄の唇に噛みついた。
作品名:Dear Monster 作家名:とおる