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致死量までの毒。

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仕事帰りに皆で酒を飲む、と私を他社から引っこ抜いた社長を含んだ幹部職の面々に誘われて仕方なしに居酒屋に来ていた。
騒ぐのは好きじゃないと、隅っこにいれば社長に焼酎を付き合うように命じられたので、仕方なしに近付けばオンザロックを薦められた。
「私は酒が駄目だと何度も……」
「余が知った事か。飲め」
社長は自らが飲んでいたグラスを口元に押し付けられたものだから、仕方なしに飲み下せば(どう考えても400mlはある)喉がヒリヒリと焼き焦がれるような気がした。
昔から酒は得意ではないものだから、(ワインを嗜む程度に飲むくらいだ)嫌だと首を横に振れば案外簡単にグラスを遠ざけてくれた。
「やめてくれないか。……あぁ、喉が」
爛れたように熱を誤魔化すように水を大量に煽ってもヒリヒリするのは変わりそうになかった。
「ふはは。松永にも、駄目なものがあるとはな」
社長を父親から若くして受け継ぎ、今や日本で五本の指に入る程の大企業まで仕立て上げた、魔王という渾名が相応しい青年は愉快そうに笑っている。
「私は酒はあまり嗜まないのを知ってるだろう……」
「……だから、うぬに飲ませたに決まっておろう」
下手したら自分の子供でも可笑しくない男に、けらけらと笑われて些か気分が悪かった。給料もいいので、文句は更々ないのだけども。
結構アルコール度数が高い酒を一気飲みさせられたからか、少しほろ酔いな気分でボウとしていた。個室故に出来た壁に寄りかかっていたのに、居酒屋の入り口で怒号が聞こえて無理矢理意識を戻された。
「のぅ、松永。どうやら怒られたのは、うぬの部下らしい。どうにかして来い」
「なんだね。全く、馬鹿共が……」
瞼をさすりながら入り口へ向かえば私と同時期に他社から引っこ抜かれた部下が、汚らしいコンクリートの上に鼻を擦り付けて土下座をしていた。なんともシュールな光景である。
「……なんだ、てめぇ」
声を掛けられたので気怠げに声の主の方を向けば、頬に斬りつけたような傷はあるし髪は冗談みたいにきっちりとオールバックと、完全にヤクザとしかいえない出で立ちであった。
「それは、私の部下なのだが。どうかしたかね」
「こいつなら、若様にぶつかった上に、こちらに苦情を言ったものだからな。テメェが上司ならちゃんと躾ぐらいしとけ」
言葉を離す価値などない、と言ったように吐き捨てるように吼えられたものだから、正直部下はどうでも構わないが、気分が悪くなるものである。社長といい、この男といい、自分とは二十歳は確実に離れているのに散々な物言いをしてくれるものである。
「ふふ、それはそれは。卿と、卿の上司に悪い事をしたものだ。コレは私のお気に入りでね、だから土下座はやめさせてくれないか、コイツが跪くのは私だけで充分なのでね」
相手の返答を受ける前にどこかに回収させようと、襟を引っ張って無理矢理立たせ、居酒屋に入るよう開きっぱなしの入り口まで引っ張っていった。
「すまないね、見苦しい所をお見せした」
「別に構いやしねぇが。それにしても、いい度胸してんじゃねぇか」
下から上へ舐めるように眺められたものだから、先程の見下される方がよっぽどマシだと後悔する羽目となった。会社から引っこ抜かれたといっても、そこまで腐敗させたのは自分であるし、他人を蔑むのも他人に蔑まされるのにも慣れているとはいっても、蔑まされるのは自分を矮小な存在に見られている気がして気分が悪かった。
「卿みたいに、突っ走るような若さは持ち合わせていないものだからね」
「はん、言ってくれる。……殺されたいか?」
きつくつり上がった瞳に、どこか血に飢えたように舌なめずりをしながら、オールバックをした男は私のネクタイを引っ張って顔を近付けてきた。鼻がかち合うのではないか、といった距離である。
「それはご遠慮したいね。私は死ぬのなら好きなものに囲まれて死にたいよ」
首を押さえられているため、どこか喘ぐような声しか出せないのだが、口元に薄ら笑いを浮かべて答えてやれば男は面白いと呟いたかと思えば、腕を捕まれて目の前に止めていた車に乗せられた。犯罪といっても過言ではないような状況である。
「若様とやらに、ついていかなくてもいいのかね?」
「若様なら、一人で帰られると言っていたから問題はねぇよ。それより自分自身の心配はしなくていいのか?」
首を傾げながら問い掛けられて思わず口を閉じた。正直、社長が三好からの話を聞いてどうにかしてくれるかと思ったのだが、駄目だったようだ。思うように働かない部下と上司を思い浮かべるだけで今なら何度でも舌打ちが出来るような気がする程である。
「嗚呼……、そうだね。最悪社長がどうにかしてくれるよ」
「社長? そりゃ、よかったな」
出ようにも助手席に乗せられて運転席に座った男に腕を掴まれているし、曖昧に答えたのはいいものの正直投げやりになりたくなるような状態だ。
ぐ、といきなりアクセルを踏まれた。
「や、やめてくれないか! 卿は私をどうしたいんだね」
「あ? んな、もん……テメェを若様のとこに引っ張っていくだけだ」
な に を 言 っ て い る 。
あれだろうか、私は見たこともない若様とやらに、目の前の男より年下の男に頭を下げろと。そういう事だろうか。
車で明らかに100キロに達するのではというスピードで走らせ、硝子越しの外しか見ていない男はさも当たり前のように言ってのけた。
「私は年下に頭を下げるなんて特殊な性癖なんて持ち合わせていないのだが」
「勝手にほざけ」
こちらの意見を聞く気はないらしい。車は右へ左へ、車線変更を何度もしては遅い車を抜くといった危ない運転を繰り返していた。何度も行われるトリッキーな動きは吐き気を催す位に乗り心地が最悪だ。
「全く、バカなことをしたのは三好だというのに。私がどうして、尻拭いを……」
「テメェがその三好とやらを逃がしたんだろ」
フロントガラスを睨みつけていた目をこちらに向けて、どこか貶すように笑みを浮かべてきた。
「ちょっと、前を向きたまえ! 車が事故を起こしたらどうするんだね」
「名も知らない奴に心配される必要はねぇな」
もう一度前を向いた男は、喉でかみ殺したような笑みを浮かべてはいきなりブレーキを思い切り踏んだ。急停止が起きて上半身が慣性の法則に従って前にガタンと倒れた。勿論、シートベルトなんか締めていなかったので胸を強打する羽目となる。
「全くなんて運転の下手な男なんだね……」
「怪我さえ無けりゃ充分だ」
降りろ、と急かされるものだから扉を降りて目の前を見れば、立派な建築物があった。上に掲げられた看板の名前にどこか見覚えを感じつつも、後ろの男に腕を捕まれて中へと連行された。
「……なんで、私は年下の名も知らない男に、腕を掴まれてないといけないのだろうね」
「俺の名前は片倉小十郎。これで充分か?」
それ以上話す価値はない、といったように顔を背けられたものだから仕方なしにとぼとぼと付いていけば見覚えがある顔が目の前にいた。
会社に来て社長と一対一でなにやら懇意ゆに話し合っていた男であった。左だけの隻眼に年端もいかない餓鬼とは思えない皮肉な笑い方が印象的である。
「私になにか、用かね」
作品名:致死量までの毒。 作家名:榛☻荊