Cerisier rêve
+++サンプルのサンプル+++(終わり次第サイトにあげます)
「日本文化を見ておいで。」
上司の言葉はまるで鶴の一声。それには絶対服従で、今回もまた然りである。
「え?い、今から?」
「そう。向こう観光しておいでよ。もちろん仕事だけど」
数時間前に言われて、渡されたのは一枚のチケット。笑顔で渡されたそれには、日本行き・本日最終便の文字。状況を飲み込めず、ぽかんとしていたら、ここ気をつけてね。と指指され青くなる。そこには最終便の文字と日時と席番、そして2枚目のチケットの同じ所には日時と席の指定を表す文字。
飛行機の窓際席で一人呟く。考えるのは、青年が自分に向ける表情。気持ちが沈んでしまうとわかっていても、考えずにはいられなかった。その沈みを払拭するかの様に、フランシスは窓を覗き込んだ。
今、雲の上を飛んでいるからか、空は本当に青い。青と水色の中間のような色をした空、下には白の雲。
日本は今、どんな色をしているのか、十二月の日本はどんな風景なのか、久しぶりに彼の本国で会う恋人の顔を思い描いた。
今回の仕事中も彼の所に世話になるらしい。上司が連絡済みだと、先、電話をもらった。
―『あ、繋がった!フランシス、もう向こうの上司には話してあるからね』
―『えっ!?』
―『大丈夫大丈夫。彼はちゃんとしてるから』
本当は、アポ無しで突撃して驚く顔が見たかった。
「へ?」
呼び鈴に誘われ、部屋の惨事を横目に渋々玄関の扉を開け、外の眩しさに目を瞑った。眩しさが目を差す中、瞼を開けると、太陽を反射したような綺麗な金髪が目に入った。
細く美しい絹のような髪の毛、微笑みを浮かべた優しい顔、細められた蒼の双眼。麗人、と呼べる彼がそこに立っていた。
「Bonjour! 元気にしてたかい?」
「ぼん、じゅーる。フランシスさん」
「そうそう。comment allez vous?」
「こ…?」
「お元気ですか?菊ちゃん」
フランス語の挨拶、簡単なのは覚えて返せるようになったけれど、やはり少し入ったフランス語はわからない。ニコッと笑った青年に菊は慣れない異国の挨拶と笑顔で返して、呼び鈴近くにある腰までの高さしかない門を開ける。
作品名:Cerisier rêve 作家名:紗和