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As you wish / ACT9

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「・・・平和島静雄だ。そんで、なんでお前が謝るんだ?」
自分に喧嘩を売ってきたのは臨也であって、この少年ではない。裏で彼が糸を引いていたというのならば分かるが、そうならば謝りには来ないだろう。睨みつけるようにして問うが、帝人は臆することなく答えた。


「臨也が僕のものだからです。僕のものが静雄さんにご迷惑をおかけしたのだから、所有者が謝罪するのは当然でしょう」


いっそすがすがしいまでにきっぱりと、そんなことを言ってのけた帝人に、静雄は言葉をなくし、反対に臨也はとろける様な笑顔に一瞬で切り替わる。
静雄はゆっくりと瞬きをして帝人を凝視した。今この、何の変哲もないはずの少年が何を言ったのか、とっさに理解できなかったのだ。
僕のもの?所有者?なんの冗談だ?
「・・・どういう意味だ?」
さっきと同じ問いを、しかし大分困惑の色が強く出た声で問いかける。少年は一つ頷いて、まっすぐに静雄と目を合わせた。
「1年前から臨也さんの身元引受人になっているんです。ですから、臨也さんの所業に対する責任は僕が負います。失礼をしたならば謝りますし、叱ります。当然のことではないですか?」
「お前が?どう見ても中学生か・・・高校生くらいにしか見えねえが」
「高校生です。ご不満ですか」
不満とか、そういう問題ではない。臨也を制御するのに、そんな小さな子供で大丈夫なのかと、静雄は単純に心配しただけだ。それに、さっきの説明では前後関係は全く分からないではないか。なぜこんな子供が臨也の身元引受人になっているのか、その事情が一切省略されている。
だが静雄は口をつぐんだ。帝人のまっすぐな視線に、それ以上の追及を封じられている気がした。本来なら、静雄が気を使ってやる必要はないのだが、それでも。
「・・・お前は俺が怖くねえのか」
問いかけに、返答はすぐに返った。
「なぜです?」
余りにも当たり前に、当然のように、そんな切り返しをしてきた人間は初めてだ。驚いて一瞬息をのんだ静雄に、帝人は小さく首をかしげた。
「僕は別にあなたに殴られたり脅されたりしたわけではありませんから、怖がる理由がないと思います。違いますか?」
「いや・・・」
言葉を濁す静雄を静かに見つめて、それから帝人はちらりと臨也を振り返った。先ほどからずいぶんおとなしくしている。
「・・・あの人は引き取らせていただきますね」
有無を言わせぬ強さでそう言って、帝人はくるりと静雄に背を向ける。喧嘩に水を差されたのは本意ではないが、しかし、帝人に対して置いて行けと言ってもきっと無駄だろうことは、この短い会話で悟った。静雄はただ黙って、遠ざかる2人の後ろ姿を見送る。
・・・まるで、恋人同士で歩いているような、そんな雰囲気の背中を。




「・・・帝人君」
「・・・」
「帝人君ってば、怒ってる?」
「別に」
「嘘。帝人君が怒ってるのはすぐわかるよ、俺たちはつながっているんだから」
ねえどうしたの、俺何かした?心底困ったように言う臨也に、帝人は大きくため息をついた。何かしたって?
「心配したんです」
帝人は隣で情けなく帝人を見下ろす男に目をやる。いくら吸血鬼だとか、人間じゃないだとか言っても、ベンチで殴られたら普通は死ぬだろう。いや、臨也のことだから死にはしないかもしれないが、それでも大けがくらいは負うはずだ。そりゃ、帝人が血をあげればすぐになるかもしれない、けれども、怪我をしている姿なんて帝人は見たくないのに。
「あなたがへまするとは思ってなかったので、ちょっと、駆けつけた瞬間殺されそうになっていた姿に驚きました」
素直に言えば、臨也は息をのんで、それから一瞬ためらった後帝人の手を取った。俗に言う恋人つなぎの様にしながら、帝人の手の甲に口づける。
機嫌が良い時、時々こういうことをする。額だったり頬だったりとにかく帝人にキスをしたがるのだ。
「ちょっと、臨也さん?」
「来てくれてうれしい」
「・・・そりゃ、あなたのことを放ってはおけませんし」
「心配してくれて、うれしいよ帝人君」
臨也はこの後も、正臣の無事のためにやらなくてはならないことがある。帝人が家に帰宅できるのも、あと2日くらいはあとになるだろう。それは正直面倒くさかったが、今の帝人の言葉でがぜんやる気が出た。
「・・・あたりまえでしょう」
そんなことで機嫌をよくする臨也に、今度こそ帝人は飽きれて息を吐く。



「あなたは、僕のものなんですからね」
作品名:As you wish / ACT9 作家名:夏野