Secretary
ミシマとゆかり
「昨日のD区の報告書、上がっているか」
「こちらです。三島さん、始末つけるの早すぎますよ、データ取る身にもなって下さい」
とぼやきながらスタッフは、報告書のファイルとは別に、片留めしたプリントの束を差し出した。
「もう見つかったのか」
「近辺に学校はそう多くないですからね。ビデオからそれらしい娘をピックアップしてあります。関係データもつけてありますから。……しかし、どうしたんですか?」
昨日もそうであったように、三島は被害者や彼らのその後のことは全て他に任せきりで気に留めたことなどなかった。スタッフが怪訝な顔をするものムリはない。
「何か重要人物ですか?」
「…君が気にすることではない。が、そんなところだ」
ファイルの束を抱えると、三島は部屋へ戻っていった。重要人物。あながち、嘘は言っていない。あの少女は、過去の自分の関係者なのだろうか。娘や恋人というには齢が離れすぎているから、妹か、血縁のものだろうか??
今年の、窓下の花が終わる前にあの人を思い出してやりたいと思った。その人はもう長い間、光の中で『吾郎』と呼びながら、自分を待っているのかもしれない。
定時になり、サプリメントの食事を摂ると三島は窓辺に寄って、スタッフが調べたプリントを捲った。
自分でも覚えているのはセーラー服の制服とロングヘア、そして女生徒であるという以外になく、どの写真を見ても見分けがつかない。学校に張り付くか、そう考えて捲った最後の一枚に、彼女はいた。
「堀口…ゆかり」
名前と、住所やまだ少ない経歴を指でなぞる。父親は11歳の時に行方不明となっていて、今は母親と二人暮らし、その母親も父親がいなくなった頃に大病を患っていたとある。
三島は暫く、ゆかりの写真を見つめていた。携帯電話を取り出すと、書かれている電話番号を押し、そっと耳に当てた。
五度目のコールで
『もしもし、堀口です』
と明るい声が飛び込んできた。
「ゆかりさんはいらっしゃいますか」
切り返しが早かったのか、名乗らないせいか、電話の向こうの人は黙ってしまった。
「あの……」
『ごろうちゃん?』
確かめるように耳に入ってきた声と言葉に胸を掴まれる。あぁ、やはりその名は自分のものなのか。
「お聞きしたいことがあります。明日の放課後、あの公園に来ていただけませんか」
ゆかりは返事をしない。昨日、あんなことがあったのだ、警戒しているのだと三島は思った。
「昨日のようなことは起こりません。安全は保証します。……お待ちしています」
そう一方的に言うと電話を切った。こんな不気味な言葉で、彼女はやってくるだろうか。しかし急がなければ、花が散ってしまう。
どうか私に記憶を。
あの人を 迎えに行かせてくれ。