二夜ノ夢
静雄はそう云って笑ってから、「じゃぁ、またな」と云うと、私に背を向けて歩き出してしまった。其の背中が角に消えるまで見送った後、私も愛馬を走らせる。
風を切りながら、静雄の言葉を思い出す。確かに、静雄の云う通りだった。分からないことで頭を悩ませることより、今、自分の周りを取り囲む人々と話が出来て、触れ合うことが出来ることが一番大切なのかも知れない。先のことは分からない。分からないことは、其の時考えればいいのだ。
日本へ来て、此の街に来て、私は随分変わった。デュラハンとしてデュラハンらしく生きていた頃は、人間になんて特に興味は無かった。ただ、死期を伝えていただけ。其れが今は、こんなにも人間と繋がりを持ちたいと思っている。
此の街には人間が溢れていて、見ていて厭な奴もいれば、いい奴もいる。とても面白い。こんなことを云うと、何処ぞのいけ好かない情報屋みたいで厭気が差すが、私は人間が好きなんだろう。此の街も、私は好きだ。
もう下らないことを考えるのはよして、家に帰ろう。幸い私には帰る家も、一緒に暮らしてくれる人がいる。此れは十分仕合わせなことなんだろう。人間はこんなにたくさんいるのに、皆それぞれ孤独だ。其れに比べたら、私は仕合わせな化け物かも知れない。
私も人間だったらいいと、やはり少し思うけれど……。
(2010/03/31)