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闘神は水影をたどる

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 長い船倉の廊下をぐるりと渡った最後尾が、モノセルノの機関部である。
 鼻にくる潮の香と湿気をまともに吸い込み、ロゼリッタたちはフードの留め金を口元まで引き寄せてしっかりと締めた。ざあざあと恐ろしいような音と飛沫をあげ、すぐ向こうで機関の羽が水をかいている。掻き羽には水の加護を受ける紋章片が埋め込まれており、青白く光っている。海が凪いだ日には水流を起こし、快速操行を助けるすぐれ物である。しかし、恩恵を受けるのがひとならば、紋章片が喚び込んだ海水の始末をつけるのもまた、ひとである。
 ふたりはどちらからともなく掃除用の葦束を手にしゃがみこむと、黒くかびた床を擦り始めた。
 リグドもまさか一年中海水にさらされるこの場所を、完璧に掃除できるとは思っていないだろう。ロゼリッタは懲罰でしかないいまが悲しくて仕方がなかった。
「ロゼ、どうして怒ったの」
 ニコが遠慮がちに声をかけてくる。ロゼリッタは唇を引き結んだまま、掃除を進めるのをいいことにどんどん彼から離れた。
「ロゼ、なあロゼってば」
「付き合わせたのは詫びる。帰港したら、もう一度リグド一等に謝りに行こう」
「なんで怒ったの」
「……どういえばいいか分からない」
 ニコは黙ったが、やがて洟が垂れてきたと呟いて鼻を擦り上げるのが聞こえた。ロゼリッタは振り返った。
「ごめん」
「俺、リグド様嫌いじゃないぜ。俺なんかの名前を覚えてくれてたのだって、本当はすげえなって」
 ロゼリッタはくしゃくしゃと相好を崩し、ありがとうと頭を下げた。ニコは返事もそぞろにどぎまぎしながら方向転換し、ロゼリッタとは逆の隅に向かって荒々しく床を磨き始めた。
 自らも再び真っ黒に湿った床に向き直ったとき、ロゼリッタは柱の陰に布のようなものがあるのに目を留めた。誰かが帆布を片し忘れたのだろうか。なんにしてもこんなところにあってはもう使えないだろう。訝りながら近づいていく。しかし、布の下から覗くものに気づいた瞬間、ロゼリッタは声も失って藁束をきつく握りしめた。
 視線の先には、人間の足があった。

作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ