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闘神は水影をたどる

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 その男は、のそりと蝋燭の明かりの下に這いだしてきた。
 影そのものが動いたように、男の姿は光を拒絶していた。
 骨と筋の浮き出た手足は垢と煤で黒く汚れている。船で帆布に見えたのは男の着物だった。戦場を転がり逃げてきたようにぼろぼろで、あちこち破れ、こびりついた泥と血の染みは乾ききっていた。男自身にも無数の擦過傷や切り傷が見られたが、それだけではとても足りない量の血液が着物を染めている。ロゼリッタには程度がわからなかったが、それは何人もの人間が死ぬのにじゅうぶんな血だった。
 男は昏(くら)い目でロゼリッタを見上げた。眼窩のかたちに垢が溜まっている。
 ロゼリッタは最大の自制心で不快感を抑えながら、男と自分のあいだに円板を置いた。
「これは貴方のですね。貴方をモノセルノから降ろしたときに、わたしの懐に潜り込んでしまったのです。それで――」
 言い終わらぬ間に、男が獣のように吠えた。
 衰弱して気を失っていたのが嘘のようだった。座った姿勢から跳ね上がり、凄まじい勢いで円板を打ち砕いた。
 ロゼリッタは悲鳴を上げることもできず、円板を踏み砕き続ける男を茫然と見つめた。
 がしゃん、がしゃんと音が耳を刺すたびに、恐慌が地面から彼女の足に絡みついた。
「丸腰か」
 男は呼吸を酷く荒げながら言った。口の中を探るように頬を動かし、唾を吐き捨てた。木箱にはりついたそれは赤黒くさえ見えた。ロゼリッタは鳥肌立った。男から目を離したり後退りしたりしたが最後、一瞬で喉を食い千切られると思った。
「自分は大丈夫だとでも思っているのか。おまえは上流の人間だろう。なにがあってもくたばるのは自分ではなく自分以外の誰かが代わりに死んでくれる。おまえは図々しく生き延びる。そうやって生きていやがる。逃げ場のない海の上で戦艦に乗っていても、得体の知れない男のところに丸腰でひとりのこのこやって来てもな」
 男が叫んだ。喉が裂けて血が出るような怒気だった。
 ロゼリッタは声が出ない。
 そこへ、異変に気づいた海兵がひとり、扉を跳ね飛ばすようにして入ってきた。
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ