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闘神は水影をたどる

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 ロゼリッタはリグドの少し後ろを追随しながら、兄の踵ばかりを見ていた。王邸のあたたかな灯りが近づくほどに何か、なにかを言わねばと思うのに、男から受けた仕打ちと、呼吸を奪う憎悪の濁流への恐怖が口をついて出そうで、躊躇われた。考えなしだったことは身に染みていた。
「総督に報告しなければ」
 リグドが言った。頬の横を流れる夜風に消え入るような声で、ロゼリッタははいと返事した。
「覚悟しておけよ。こっぴどく心配されるだろうからな」
 ロゼリッタは顔を上げて、ようやく兄の背中を見た。振り返ったリグドが身を屈め、ロゼリッタの頬を二、三度軽く叩いた。
「危険な真似をするな。俺はおまえが海兵になることも、いまだって反対だ」
 ロゼリッタは、何度となく言われてきた言葉を、これまでになく神妙に聞いた。立派な訓練を受けてきたにもかかわらず、ぴくりとも動かなかった手が思い起こされた。
 頭のなかで剣技の型を組み立てる。次に、男の動きをそこへ当てはめようとした。出来なかった。記憶のなかの男の動きは影のようだった。煤けた真っ黒い煙が男のかたちになっている。うぞりと進み、ロゼリッタを押し潰そうとするばかりで、ただただ恐ろしい。
 剣の軌道だとか、踏切足の重心だとか、そんなところにはなかったのだ。
 男が全身全霊でうったえたもの。うつろな眼差し。死だ。わたしが死を反射していた。
 恐怖から解かれつつある心臓がどくどくと働き、ロゼリッタの細い指先はようやく震えだしていた。
「ごめんなさい、兄様」
 階段を上がりきったところで、ロゼリッタは水場に座る者に気づいた。あ、と頬が綻ぶ。
「フェリド兄様」
 思わず歓喜の色をもった声が出てしまってから、失言に気づき、ロゼリッタは恐る恐るリグドを見上げた。ああ、とその黒目がちな瞳が揺れる。予想に違わず、次兄の表情は凍りつき、見る間に怒気を孕んだ。
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ