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闘神は水影をたどる

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 フェリドは棍を畳み直し、少年に返した。少年はもとのように外套の下の鞘に棍を収めると、足を崩して膝のまえで抱えた。多少警戒を解かれたのを意識し、フェリドも隣に腰を下ろす。
「珍しい武器だが、おまえの故郷特有のものか?」
「故郷というよりも、私の家に伝わるものです。ほかにはないと思いますが、他国をすべて知っているわけではないので、わかりません」
 少し投げ遣りのような、あきらめのこもった口調で少年は言った。
「群島の者ではないな。交易商の子か?」
 袖から伸びる細腕の白さを見ながらフェリドは尋ねる。
「ただの旅行者です」
 それ以上会話が続かなかった。出身のことを多く語る気はないらしい。
 言葉遣いから育ちの良さは伝わってきたが、それだけでは身に付かない、所作や声音の端々に滲む少年の気高さと一線引いた警戒心を、フェリドは好ましく思った。
 フェリドが立ち上がると、少年もそれに倣って尻をはたいた。
「足がなくてはなにかと不便だろう。これからどうする」
「旅程をともにしている者と一度落ち合います。それから、もう一度探します」
「あきらめてもう一頭買ったらどうだ?」
「なぜ?」
 鋭い口調が返ってきた。
「市場に出れば馬はいます。でもそれは、この国の民のための馬です。陸続きでないこの地で、馬のように大きな生物を物流に載せるのは大変なことでしょう。私は私のためでない安い馬を買う気はない」
 少年は言い放ってきりと唇を結んだ。頬が初物の林檎のように赤かった。
「当てはあるのか」
 見る間に俯いてしまう。フェリドは笑った。木陰に繋いでいた馬を引いてくると、ぽんぽんと叩いた。乗れと言うのだ。
「俺はある。珍しい武器をみせてもらった礼に、案内してやろう」
「で、でもそれは、非礼への詫びで……」
「ん、そうだったか? ではこの国の民として、おまえの気概に感動したのでというのはどうだ?」
 少年はぽかんとして、馬に鞍を被せるフェリドの動向を見守った。裾を翻して馬に跨ったフェリドが手を差し伸べても、困惑したまま手を取ろうとしない。
「俺はフェリドだ」
 ふと気づいてフェリドは名乗った。少年の懸念はそういったことではなかったのだが、溜め息を吐いてこちらもいま気づいたようにフードを外した。
「アル」
 フェリドは圧倒された。フードの下から零れだした緩い三つ編みが、見たこともない白銀だったのである。それは太陽の下でなお、夜空の星を思わせる冴え冴えとした光を放った。少年の瞳の色は霧雨の日に海中から空を見上げたときの色に似ていた。青の中に泣き出しそうな薄い灰色の混ざった、水面。
 どんな苦境を強いられる戦場でよりも、フェリドは目の前の少年に圧倒されていた。
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ