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闘神は水影をたどる

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「申し訳ないことをしました」
 少年は気まずいように視線を泳がせながら、草の上で腿をそろえ座っていた。
「いやいや、久しぶりに面白いものが見れた」
 フェリドは本気で笑っていた。
 上着を脱いで少年に背中を見せ、打ち身の具合を尋ねる。少年はちらりと背中を見ただけで「赤いです」と口早に答えた。
「馬を、盗まれて、探していたら同じ赤毛がいたので、私の馬かと思っていたところに貴方が現れて……その」
「こんななりでは誤解するのも無理はない。俺でも野盗だと思う」
 着物や伸び放題の髪には昼寝の名残の枯れ草がついている、無精髭面の男だ。豪快に笑い飛ばされ、少年はますます小さくなる。フェリドは少年から渡された軟膏をさっと患部に塗ると、礼を言って返した。少年が着物の懐に戻すのを眺めて、面白そうに口を開く。
「いや、やはりひとを泥棒扱いするのは許せんな。もう、ちょっと詫びが欲しいんだが」
 少年が動きを止めた。フードの下に、困惑と非難が入り交じった感情が垣間見えた。
「どうすれば」
「さっきの見せてくれ」
 少年が首を傾げた。フェリドは自分の腰の後ろを指し示してみせる。了解したように息を吐いて、少年は外套の下から畳まれた朱い棍を差し出した。
 見たことのない武器だった。よく乾いた軽くて堅い木で出来ている。それだけで大陸に拠点をおく技術者の作品だと知れた。高温多湿の群島諸国では、まず、素材からこのように芯まで水気を抜くことができない。
 鮮やかな塗りの朱色に、漆黒の炎のような紋様が描かれていた。
 突きや打ち下ろしに優れた棍としての機能と、遠心力や変幻自在の技の繰り出しに優れた三節棍としての機能を、戦況に応じて使い分けられる代物だった。棍に組み立て、かちりと回すとなかから鎖の連結部が顔を出す。フェリドが引っ掛かったように、相手の虚を突くには絶大な効果があった。
「なるほど」
 フェリドは立ち上がり、棍を構えた。
 振り下ろす。太い風圧で足下の草が割れた。身体を反転させながら棍を持ち替え、前に繰り出しつつ連結部分を回した。三つに分かれた棍はしかし、空をしなると、フェリドの肘を強かに叩いた。予想外の痛みに蹲ったフェリドに、少年の快活な笑い声が送られた。
「そう、慣れないうちはそうなってしまうんです」
 武神と讃えられたフェリドにして、涙目で肘をさすった。
「私も痣だらけになってやっとここまで」
「ちょっといい気になっていたな。いや、すまん」
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ