闘神は水影をたどる
「失敗したわね、ロゼ」
「運が悪いわ。ほかの一等様ならほら、見逃したかも」
「リグド様だからな。いつ怒鳴られるか、おちおち居眠りもできないよ」
「リグド様は背中にも目があるって噂知ってるか? 僕はロゼが入ってきたの気づかなかった」
こそこそと笑いあいながら耳打ちをする彼らは、ロゼリッタと年の頃も同じ、海兵学校の同級だった。
リグドの言う戦艦に乗っている気概も、海賊討伐などで慌ただしくならなければなかなか感じることもない。ロゼリッタも、背中に目玉をつけた兄を想像して、鉄弓の一方を持った少女と笑いを噛み殺していた。
しかし、その時出されたもう一人の兄の名に、彼女の身体はぴくりと反応した。
「聞いてくれよ。フェリド様はさ、先週、おれにこっそり釣りの穴場を教えてくれたんだぜ。父ちゃんも知らなかった。今度みんなにも教えてやるよ。なんてったって食べきれないくらい釣れるんだ。それにまた、フェリド様に会えるかも!」
恍惚とした調子を隠さぬ声音を背中に、ロゼリッタは曖昧な笑みを顔に貼りつけた。
そろそろ内緒話では済まなくなった興奮が広まっていく。
少年たちは皆、武芸に秀で、彼らのいたずらを発見しようものならその助太刀に回らんとする海兵長を慕っていた。輪の中心にいる少年は、なかでもフェリドに心酔してやまない腕白盛りの少年である。
振り返って彼の顔を見たときには、ロゼリッタの笑みはすっかり剥がれて、ひりつく熱さだけが頬から落ち損ねていた。ロゼリッタは鉄弓を壁に戻し、少年たちに歩み寄った。