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闘神は水影をたどる

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 甲板の乗員たちは精力的におのおのの仕事をこなしていた。
 スカルドと同じ船を動かすなど滅多にある機会ではない。
 スカルドは政官たちと王邸で政にあたっているか、旗艦リノ・エン・クルデスに乗船しているかだ。旗艦は来月の海兵昇任式典と、それにともなう群島諸国使節との謁見、各国首脳との全洋統一施策会議――洋上会議の通例召喚を控え、化粧直しの真っ最中だった。
「ロゼリッタ四等。四等はみな荷の積み下ろし準備に入ったぞ」
 三等海兵に怒鳴られ、ロゼリッタは飛び上がってスカルドが開け放したままにしていた船室の扉をくぐった。
 オベル王族の一人である彼女に対して、海軍では誰も礼を払うことをしない。ロゼリッタは、オベル王国海軍ではただの四等海兵ロゼリッタだった。
 物心ついてからというもの、海軍学校においても軍門においても、王族ということで他人から酷く当て擦られたことも、その恵まれた生き方に唾棄されたこともない。それが父たるオベル王の威光を民が確かに受け入れ、彼女の二人の兄の人望が築き上げた僥倖であるということを、ロゼリッタが強く意識したことはなかった。オベル王に愛されて育った少女が、よくもわるくも素直な心を宿したことは、確かである。
 駆け下りて向かったのは武器保管庫だった。盾や剣立て、五行魔法を喚びだす紋章球を抱えててきぱきと動く四等兵たちにそっと混じり、ロゼリッタは立てかけられた鉄弓を手に取る。
「遅い」
 背中に冷水を浴びせるような声に、ロゼリッタは危うく鉄弓をすべてなぎ倒してしまいそうになった。
「四等は全員帰港を前に武器庫整備にあてられていたはずだが、甲板におまえの仕事があったか?」
 ロゼリッタの髪や制服の肩から水気が払い落とされ、それが済むと、彼女よりずっと高い位置にある黒い瞳が冷ややかにロゼリッタを睨みつけた。オベル王家第二子、一等海兵のリグドである。ロゼリッタはなるべくならリグドの視界から消えてしまえるようにと身を小さくして項垂れた。
「遅くなりまして申し訳ありません」
「ここが戦艦の上だと下船まで気を抜かぬように」
 ロゼリッタは深々と頭を下げた。
 忠告には、海兵の心得、王族としての態度への、ふたつの意味が含まれていた。リグドは小さく頷くと、背筋に鉄板でも差し込んだかのような姿勢でその場を歩み去った。ロゼリッタの安堵の溜め息と同じくして、周りから小さく息が漏らされた。顔を見合わせて、彼らは共犯じみた笑みを浮かべた。
作品名:闘神は水影をたどる 作家名:めっこ