二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

人災パレード

INDEX|1ページ/11ページ|

次のページ
 
麗しきバラム・ガーデン指揮官殿の仕事机の上には地獄への扉が開いている。
ある夏の日、一通の手紙がガーデン首脳部を恐怖に叩き落とし、もう一通の置き手紙がそれに追い打ちをかけたのであった。

『やっほ〜♪ みんな元気かな? 久しぶりにバラム・ガーデンに遊びに行くから歓迎してね♪』 by リノア

『有休消化の旅に出ます。探さないで下さい。後はサイファーに任せた。』 by スコール



「スコールが逃げやがったあああああああああッ!!!!!!」
まず、今回の災厄は朝っぱらから大音量で響いたサイファーの渾身の絶叫によって幕を開けた。
人並み外れて優れている身体機能を声帯に集中させたかのような、見事な声量である。
それを至近距離で喰らって感動に打ち震えてしまったらしいゼルが真っ先に耳を押さえて床に倒れ込む。
心なしか痙攣しながら泡を吹いているように見えなくもない。
朝一で提出しなければならない書類を持ってゼルとアーヴァインがスコールを訪れたら、これだ。
セルフィやキスティスら女性陣がいなかったのは幸いと言えるかもしれないと自称フェミニストなアーヴァインは思った。
そういうアーヴァインとて間近で絶叫を浴びた一人なのだが、スナイパーは咄嗟の状況判断が出来なければ話にならない職業だ。
扉を開けた先に凄まじい形相で紙を握り締めて息を吸い込むサイファーを見て取った瞬間、アーヴァインは手に持っていた書類を手放して全身全霊で素早く耳を塞いだのである。
結果、書類が床に散らばったのを代償にしてアーヴァインは音響攻撃に沈む事を免れたのであった。
己の勘に多大なる感謝を捧げたい。
耳を塞いでいたというのにキーンと耳鳴りと眩暈がするのを無視して、アーヴァインはサイファーに声をかけた。
「サ、サイファー…! いったい何が……」
説明を求めるアーヴァインを血走った目で睨み、サイファーが唸る。
「……話は後だ」
握り締めすぎてくしゃくしゃになった紙をスコールの机に放り投げて端末に取り付いたサイファーは、端末が起動されるや否や、緊急放送回線を開くコードを手早く打ち込み始めた。
その鬼気迫る姿にどうしたものかとアーヴァインが視線を彷徨わせたその時、先程の絶叫を聞きつけたキスティスが走り込んできて叫んだ。
「サイファー! 今の声は何?! 二階の教室にまで響いたわよ!!」
「キスティス、今サイファーが緊急放送回線を開いたんだ。何か言う気みたいだよ〜」
その回線はバラム・ガーデンに属する全てのSeeDとガーデン内にいる者全員に、有無を言わさず問答無用で連絡するための回線だ。
回線を開けばガーデンを離れているSeeDにすら放送を聞かせる事が出来る。
文字通り緊急時にしか使われない、使ってはいけない回線であった。
「緊急放送回線って…指揮官権限がないと開かないじゃないの! スコールはいったい…?」
「しっ! 始まるよ〜」
アーヴァインがキスティスを遮った次の瞬間、封印されていた緊急放送回線が小さな電子音とともに開いた。

『指揮官代行サイファー・アルマシーだ。緊急事態発生により本日0930時をもって警戒態勢レベルA2を発令する。非戦闘員及び候補生資格を持たない生徒はガーデン内より退去せよ。諜報技能、情報処理技能を持つSeeDは任務の有無に関わらず回線をEチャンネルに合わせて指示を待て。その他のSeeDは防衛戦準備の後、守備陣形の配置に付いて待機。Aランク以上のSeeDは至急指揮官室まで来るように。繰り返す、緊急事態発生により…』

素早く復唱までをも終わらせたサイファーが、一拍置いてから回線をオフにする。
いつの間にやらゼルも意識を取り戻してサイファーを見守っていた。
「今の放送、何やの〜!?」
開けっ放しだった扉からは髪の乱れたセルフィが入ってくる。
呆気に取られているアーヴァインたちに向き直り、サイファーは口を開いた。
「いいか? 一度しか言わないからな」
かつてない厳しさに満ちたその口調にその場の全員に緊張が走る。

「今日、リノアが来るらしい。そんで、スコールはすでに逃げた後だ」

文字通り身の毛がよだつ程恐ろしく、どこぞの海溝よりも深い、というかまさに痛い沈黙が室内を席巻した。
数秒の間を置いてからキスティスが発言許可を求めて手を挙げた。
「ちょ、ちょっと待って…。情報源はどこなの…?」
サイファーは無言で、一通の手紙とくしゃくしゃの紙の双方を、顔面蒼白なキスティスに向かって差し出した。
軽そうな文面で来訪を予告するリノアの手紙と、いかにも身一つで逃げ出しますといった風情の走り書きがのたうっているスコールの置き手紙だ。
紛れもなくリノアの筆跡であり、スコールの筆跡である。
そもそもスコールがこの場にいないという時点で、リノアの来訪が襲撃になる事は確定したも同然であろう。
またしても痛い沈黙が流れた。
「さっきの放送の警戒態勢レベルA2ってよ…。戦争とか天災に適応されるやつだったよな…」
ゼルの感情のこもっていない呟きが虚しく響く。
「スコールはんちょがおらへん時にリノアが来るんか…。確かにレベルA2やな…」
「僕も逃げられるものなら逃げたいよ〜…」
「まったくだわね。頭が痛いわ…」
この場にいる全員、リノアが笑顔で怒り狂う様子がいとも簡単に想像出来てしまうのである。

リノア・ハーティリー。
彼女という人物を一言で表現する時、仲間たちは口を揃えてただこう言うのだ。
あらゆる意味で魔女、と。

思い返してみよう。
以前、スコールがたまたま抜けられない任務でガーデンを空けていた時は、訓練場の半分がリノアの癇癪で吹き飛んだ。
またある時は、リノアの来訪中にエスタからスコールに電話がかかってきて、拗ねたリノアが近海の小島を海底に沈めた。
さらにまたある時は、スコールが多忙を理由にリノアの訪問を断り、リノアは半泣き状態で怒りながら天国に一番近い島のモンスターを一人で狩りまくったという。
リノアはそんな魔女だ。
くしゃくしゃの紙を手のひらで伸ばしながらサイファーが場を仕切り直した。
「状況はこれでわかっただろう。これから俺たちが生き残るための対策を立てるぞ」
伸ばしきったスコールの置き手紙をメンバーの前に掲げるサイファー。
「有給消化の旅に出るっつーのは、単なる口実だろうからいいとしてだ。『探さないで下さい』ってのはつまり、追っ手をかけたら返り討ちにするってな宣言だろうな」
「うひゃ〜、スコールはんちょ過激〜」
セルフィがヤケになって茶化す。
「で、だ。後は俺に任せるってのは…」
爛々と目を光らせてギリギリと歯を食いしばるサイファー。
今ならアダマンタインも噛み切れる。
その怒りと衝撃は推して知るべしである。
「あんのバカスコール…対リノア戦の指揮も何もかも俺に押し付けて今回は逃げ切る気だ。俺を生贄にしてリノアの追撃を抑えるつもりなんだろうが、冗談じゃねぇぜ。俺はまだ死にたくない」
自分も嫌だ、と異口同音に全員が同意。
生贄になる被害者がサイファー一人だけで済むという事が、スコールが薔薇の花束を抱えてリノアに求婚するという世界の終わり並にありえないからだ。
とんとんと、苛立たしげに忙しなくデスクを叩くサイファーの指。
作品名:人災パレード 作家名:kgn