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人災パレード

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直にリノアを相手取って時間稼ぎをした、あの時の恐怖とゼルの一件を事細かに言いたいだなんて思えない。
「僕らは、ゼルに工作班組ませてリノアの足止めをさせようとしたんだけどさ〜…」
「でもほとんど足止めにならんくて〜、ゼルの工作班がリノアのメテオ喰らって軽傷者数名やて」
「記録映像はあるから興味があるなら後で見るといいよ〜。……結構ホラー入ってるけど」
「ゼルたち、メテオのせいで帰還がちょお遅れるかも言うてたわ〜」
簡潔にも程がある情報交換はこれで終わりだ。
何にせよ、この場にいるメンバーには肉体的なケガはほとんどないと言っていいだろう。
スコールと一戦交えてきたサイファーですら、すでに治療が終わっている。
すぐに治療を終えられる程の軽傷だったという事だ。
「疲れた…」
サイファーの呟きに全員が深く同意の頷きを返す。
リノア来襲時の精神的疲労はAランク任務をも軽く凌駕するだろう。
もう動きたくない、部屋に帰って寝てしまいたい、そんな気持ちに駆られる。
と、そこでぱんぱんと手を叩いて注意を引き付けるキスティス。
「さて、全員疲れてるのはわかってるけど、今のうちに被害状況を整理しておきましょうか」
「そやな〜、今のうちに片付けておいた方がマシなのね〜」
倒れそうなくらい疲れ切ってはいるけれど、このまま帰って寝る事が出来る程の図太い神経はさすがにない。
自分たちが生贄に差し出したスコールにとってはこれからが地獄なのだから。

今度はガーデン側の指揮を担当していたアーヴァインが報告を始める。
「簡単に被害報告すると、ゼルたち工作班の軽傷者が数名、防衛班から過労で倒れた者が十数名、ガーデン内施設の被害は正門の壁が全壊、他にリノアの通った場所のいたるところに穴が開いたってところだね〜。……………被害者はあと、指揮官が一名です」
最後の一言に、思わず四人揃ってスコールに向かって黙祷を捧げてしまった。
リノアが去るのは今日の夕方の予定だが、スコールは明日からも数日間は使い物にならないと見込まれる。
その間、当然のごとくサイファーに指揮官代行の肩書きが付くわけで、キスティスに回ってくる仕事の量ももちろん増える。
他の面子も忙しくなるであろう事は必至だ。
どうしてこうも来るたびにガーデンの機能が停止しかねない事態に陥らねばならないのかと、毎回思う。
そして毎回全員が同じ結論に辿り着くのである。
リノアが、あらゆる意味で魔女だから。
最早他に説明は必要ない。
リノアがリノアである限り、この災難はスコールとスコールの周囲に容赦なく襲い掛かってくるものなのだ。
天災よりも性質が悪い。
金にならない上に被害だけは増えまくる。
バラム・ガーデンが誇る指揮官を数日間行動不能状態に陥らせ、通ってくる道は魔法被害で穴だらけ、公共交通機関に迷惑をかけ、対策を講じても常に通じず、我が道を突っ走るあらゆる意味で魔女、それがリノア・ハーティリー。
人災にも程があるだろう、と全員がそう思った。



ところで、エルオーネという人物がいる。
『スコール、倒れたって聞いたから連絡を入れてみたんだけど、今は大丈夫なの?』
孤児院時代、スコールが姉と慕った穏やかで人を和ませる気配をまとう女性だ。
スコールの自室の端末に映し出された顔はやはり穏やかに微笑んでいて、傷だらけのスコールの心を静かに包み込んでくれた。
ここ数日、部屋に閉じこもって悪夢に魘される日々が続いていた傷心のスコール。
彼の顔にも小さく微笑みが浮かんだ。
「大丈夫だ、結構元気になってきたよ」
ようやく笑う事が出来るくらいには、人と会話らしい会話が出来るくらいには回復してきたと思う。
ぶっちゃけ人間不信を通り越して人間恐怖症になりかけていました、などとはあえて言うまい。
『リノアが来ていったって聞いたわ』
エルオーネが何気なく言った人名にぴくり、とスコールの顔が引きつった。
現在最も聞きたくない単語、不動のベストワンである。
『あの子に何かされたの? あの子、私の前ではとっても良い子なのよね』
「………………何だって?」
スコール、耳を疑うという慣用句を絶賛体験中。
くすり、と小さく笑ってからエルオーネが繰り返した。
『だから、リノアは私の前では借りてきた猫みたいに大人しくて良い子なのよ』
「リノアが…?」
この儚げなエルオーネの前では、借りてきた猫並に、大人しくて、良い子?
大人しい?
良い子?
誰だそれ。
『ええ、最初は所構わず魔法で破壊したり物を自力で壊したりするから、悪い子なのかなって思ってたんだけど…』
それこそがリノアという女であるというのが、事情を知る大多数の見解なわけだが。
エルオーネはただ穏やかに微笑む。
『あの頃のリノアが全然反省してないみたいだったから私がね、「あんまりオイタすると××な人が××な頃の×××な過去のシーンに意識飛ばしちゃうぞ ☆」って言ったら、その時からぴたりとリノアが良い子になったのよ。それ以来、あの子は私の前ではとっても可愛らしい女の子なのよ?』
「…………………………」

今、力いっぱい放送禁止用語が混じっていたような気がしなくもないのだが、エルオーネの微笑みの穏やかさにほだされかけているスコールと、『エルオーネの前では大人しいリノア』という事実を前にすると、上品を体現しているかのような女性の口から放送禁止用語がぽんぽんと飛び出た事などサイファーにデスクワークを押し付ける事よりもどうでも良い事だ。
ああそうだ、今、とても素晴らしい事を聞いた。
つい無意識に子供の頃のような笑顔を浮かべてしまう。
「エルお姉ちゃん、俺から頼みがあるんだけど聞いてくれる?」
昔のようにエルお姉ちゃんと呼ばれ、しかも赤道直下の雪よりも珍しいスコールの甘え口調を聞いて、エルオーネがとびきり嬉しそうな笑顔を浮かべた。
今のこの二人はまさに仲の良い姉弟。
『何かしら? スコールの頼みならお姉ちゃん頑張って叶えてあげるわよ』
にこやかな微笑みを浮かべた姉弟二人の仲睦まじい会話が続く。
スコールは今、数時間前とはうって変わって最上級の機嫌の良さを味わっていた。
世の中、迷惑そのものな人災の塊も存在すれば、救いの女神もちゃんと存在しているらしい。
エルオーネの暖かい言葉に励まされ、お願いを口にする。
「リノアが俺のところに来る時、エルお姉ちゃんにも居て欲しいんだ」
『もちろん、いいわよ。スコールが迎えに来てくれる?』
「ああ、その時はラグナロクで迎えに行くよ。速いしな」
『リノアが来た時以外にも遊びに来てちょうだいね。ラグナおじさんも寂しがっていたわ』
「今度エスタに行くよ」
『楽しみに待ってるわ』
それから一言二言エルオーネと話し、回線を切ったスコールは執務に復帰しようとシャワーを浴びに向かった。
スコールの機嫌は今や最高潮だ。
リノア対策として最上のものを見つけたと言っても全くもって言い過ぎではないのだから、当然である。
孤児院時代に姉として敬慕し、当時のスコールにとっては心の拠り所だったエルオーネ。
成長して再会を果たしてからは彼女こそを守ってあげるべき女性とすら思っていたというのに、まさかエルオーネが女神に見える日が来るとは思わなかった。
作品名:人災パレード 作家名:kgn