二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

人災パレード

INDEX|9ページ/11ページ|

次のページ前のページ
 

「今ちょうど新しいエスタ製品の試運転中なんや。何か、でっかい建物とかにもシェルやプロテスみたいな効果がかけられるかもってヤツらしいで〜。面白そうやろ〜?」
実際は単なる人海戦術の人力魔法ですが。
この言い訳もすんなり通ったらしく、リノアが感嘆の声を上げる。
「へ〜そうなんだ、それって結構凄いよね。エスタ製ってやっぱり凄いんだ」
「うん、そんで今ガーデン内の生徒たちとかおらへんねん。いちお、試運転やから何かあったら危ないってさ〜」
「凄いよね〜? 上手く動いてくれたら学園長も購入を検討するかもね〜」
ママ先生、僕らはどんどん嘘だけが上達していきます許して下さい。
「ねぇ、二人とも。そろそろ中に入らない? 立ち話もいいけど長旅で疲れちゃった」
来た来た来た…!!!
恐怖発言がまたしても飛び出た。
学園内にリノアを入れても防衛班などは発見されないように配置してはいるのだが、この女を侮ってはいけない。
2km先の索敵機カメラの作動を感知してメテオをぶつける女だ。
SeeDたちの気配にいつ気付いてもおかしくはないと本気で思う。
サイファー、キスティス、まだなのか。
というかスコールがまだなのか。
と、内心の激しい焦りに心拍数が危険値に突入しそうな二人に対して、勇姿も神々しい救世主が上空に現れた。
安堵のあまり、膝と言わず全身から力が抜けそうになるアーヴァインとセルフィ。
ようやく、ようやくだ。
「あ! ラグナロク!」
竜にも似た赤い高速機動飛空艇の、満を持しての帰還である。
「リノア、あれにスコールが乗ってるはずだよ〜」
「もう着陸したみたいやね〜」
「やった! スコールが帰ってきた!」
心底嬉しそうに満面の笑みではしゃぐリノアの背後で突如、ドゴォン!!という轟音とともに正門の壁が吹き飛んだ。
これで救われたと思った矢先の出来事であり、表情を取り繕う余裕もなく二人が凍り付く。
「やだ! ごめんね、私まだ魔女修行の途中だからたまに魔力制御出来なくなっちゃうのよ…。本当にごめんなさい」
だからアンタは怖いんだ。
あらゆる意味で魔女、それがリノア。
最早いつ失神してもおかしくないような心境だが、ここで倒れるわけにはいかない。
アーヴァインとセルフィは気を強く持って笑顔を作り直す。
「正門くらい学園長も許してくれるさ〜」
「あんま気にする事ないで〜」
ええもう、正門の壁だけで済むのならば学園長も涙を流して喜ぶ事でしょうよ。
今頃は捕獲したスコールを最速でサイファーとキスティスがリノア用客室辺りに放り込んでいる事だろう。
「さ、そろそろ行こうか〜」
「うん!」
アーヴァインがリノアを促すと、飛び跳ねそうな勢いでリノアが歩調も早く歩き出す。
時折、ドゴォン!ドゴォン!といった耳に痛い轟音があちこちから聞こえるのは何だろう。
シェルもプロテスも、きっとリフレクがかかっていてすらリノアの破壊力の前には無意味だったんだろうなと思えてきた。
ママ先生、僕らは涙で眼の前が霞みそうです。
学園長、やっぱり被害は正門の壁だけで済みそうにありません。
ゼル、君はよくやったよ、リノアのメテオによく生き残ったよ。
キスティス、後始末や書類仕事が大変だと思うけど頑張ってね。
サイファー、スコールの捕獲お疲れ様、昔リノアの相手をしてた君が記憶喪失になりたいって言ってた意味がよくわかるよ。
そしてスコール……本当に、本ッ当にごめんね。



リノアが彼女専用客室に到着した頃には、通ってきた道のあらゆる場所に穴が開いていた。
アーヴァインとセルフィにとってはいつその余波が自分に当たってもおかしくないとあって、まさに地獄のような一時だったと後に語る。
リノアの部屋の前には予想通りキスティスとサイファーが立っていた。
たった今、スコールをその部屋にブチ込みましたといった風情だ。
「よお、リノア」
「お久しぶりね、リノア」
「二人とも久しぶり! 元気そうだね」
にこやかに挨拶するサイファーらに、リノアも笑顔で挨拶を返す。
今までに起きた出来事を全て忘れてリノアという女の事を何も知らない人間になれたなら、この会話と状況はとても和やかな仲間の再開場面と見えた事であろう。
水面下で怒濤の戦闘を繰り広げてきた身としては、そろそろ笑顔を作る事すら難しくなってきているのだが。

おもむろにキスティスが小さな袋をリノアに差し出した。
差し出したというか、むしろ押し付けるように手渡す。
「はい、リノア。これ使ってもいいからあげるわ」
「何何? …って、え? 毒消しと金の針と目薬に山彦草? 万能薬もあるみたいだけど…」
袋の中身を羅列したリノアは不思議そうに首を傾げた。
それをサイファーが説明する。
「実はな、スコールと一緒に任務してたヤツから聞いたんだが、スコールが運悪くモルボルの『くさい息』を喰らっちまったらしいんだ」
「そうらしいのよ。でも、手持ちの魔法もアイテムも切らしてたらしくて、スコールったら石化・暗闇・毒・沈黙・睡眠の酷い状態で戻ってきちゃったのよね。だからリノア、スコールはリノアの部屋に運び入れておいたから、帰るまでの間は貴方が看病してあげてくれないかしら。そのアイテムは好きに使っていいわ」
二人の早口な説明を聞いて、アーヴァインは思った。
それってスコールはキスティスのアレを喰らったんじゃないのか、と。
セルフィも思った。
誰か手っ取り早くエスナをかけてあげればいいのに、と。
そして二人は、ステータス異常の重なりまくった状態でリノアのオモチャにされるであろう運命が確定したスコールに、心の中で土下座して謝りまくった。
何だかもう、涙すら出ないよママ先生。
ていうか毒だけは消しておいてやれって。
スコール死ぬぞ。
周囲の内心の声など聞こえていないリノアは、大切そうにぎゅっとアイテム袋を抱き締めた。
「スコール…大変だったんだね。うん、私がちゃんと看病してあげるから大丈夫よ!」
輝かんばかりのリノアの笑顔が、内情を知っているだけに心に痛かった。
スキップしながらアイテム入りの袋を抱えて部屋に入っていくリノアを見送る面々。
きゃー!とヤケに嬉しそうな悲鳴を上げるリノアの声を意識的に遮断して、無言でその場から立ち去る哀愁の戦士たちであった。



ひとまず指揮官室に戻り、指揮官権限をサイファーに移行して各班に警戒態勢レベルA2を解除する旨を伝達する。
ガーデン全体を覆っていたシェルとプロテスが解除され、疲弊しきった防衛班のSeeDたちが寮へと戻っていった。
過労で倒れた者が続出したので救護班はこれからが忙しくなる事だろう。
護衛班に引き連れられて生徒たちや非戦闘員たちもガーデンに帰還すると報告が入る。
それらの雑務処理をしながら、四人は疲れ切った表情もそのままに情報交換を始めた。
まずはサイファーが切り出す。
「まぁ、色々あってだな…。スコールは意識があったらまた脱走するだろうってな事であのまま引き渡す事にした」
「あとはリノアが治すでしょう。…………たぶん」
サイファーもキスティスも多くは語りたくないらしい。
もちろん、それはアーヴァインとセルフィも同じ気分だ。
作品名:人災パレード 作家名:kgn